続聖夜の贈り物_6章3

「ちょっと~、あたしのことは無視?」
その様子にしかたなしに剣を収めて近寄ってくるエリザ。

「こんな小さなガキに剣むけるような可哀想なことはすんなよ。お姫様でもさ」
「了解。悪かったわよ」


相変わらず視覚的にはそこに確かに存在するのに、気配がしない。
しかしもう視覚的に認識されている時点で意図的に気配を消す必要もないので、おそらくそれはこの子供が意識的にやっている事ではないのだろう。
そう判断してみると、見た目はただの邪気のない子供である。

よほどお腹がすいていたのか、慌てて詰め込み過ぎて喉につまらせているので、
「ほら、飲みなさいな」
と、エリザもラテを差し出すが、それはスッとロヴィーノに取り上げられた。

「ちょっと待て。そのままじゃ火傷すんだろうがっ」
と、ラテのふたをあけると、ロヴィーノはフーフー冷まして適温になった事を確認して子供に渡してやる。
エリザはほぉ~っと感嘆の声をあげた。

「慣れたもんね。子育て経験あり?」
聞いてみると、もう片方のラテをすすりながらロヴィーノが答える。

「まあ…弟いるし?
あいつは目の前にあるもんにすぐ手出すからな。
手出して火傷するとピーピーうるせえから、その前にこうやって冷ましてやってた」

「すごいわね…あたしも従兄弟とかに勉強や武術は教えたことはあるけど、そういう基本的な事はメイドだったし…」
「…これだからお貴族様はっ」
どっちが王族なのかわからない。

二人がそんな会話をしている間も子供は黙々とパニーニを胃に詰め込んでいる。
ちっちゃな体のどこに入るのかわからないが、勧められるまま二人分のパニーニをぺろりと平らげ、こくこくと程よく冷めたラテを飲み干すと、ふ~っと満足げにため息をついた。
そのお腹いっぱい満ち足りた笑顔に、大人二人思わず釣られて顔がほころぶ。

「ご馳走様でした。」
と、行儀よく小さな手を合わせる様子も愛らしい。
きちんとしつけられた家の子のようだ。

「あなた、家は?送ってあげるわ。そろそろ暗くなるし」
実はこちらも秘かに子供好きなエリザがそう声をかけると、子供はちょっと困ったようにポワポワした金色の眉をハの字に寄せた。

「あたしが言うのもなんだけど、家出とかダメよ?
親はいなくても保護者はいるんでしょ?あなた可愛いから心配してるわよ?」

4,5歳くらいだろうか。
まだまだ小さい子供である。子供だけで暮らせるはずはない。

そう思って言うと、子供は少し迷ったように考え込んで、それから
「あの…信じてもらえるかわからないんですが…僕もう300歳にはなってるんです」
とおずおずと切り出した。

「あ~、嘘つくなら…」
という呆れたようなロヴィーノの言葉を
「ちょっとまって」
とエリザは遮った。

「あなたもしかして“人間”じゃないのね?」
と今度は子供の方を向いて言うエリザの言葉に、子供は少し驚いたように目を見開いたが、すぐにコクンとうなづいた。
「はい。僕と弟は…300年くらい前に東の島から来た魔術師に作られた魔法生物なんです」

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