フェリシアーノ達の滞在しているらしい“ねこのみみ亭”のあるイーストタウンから少し離れた田舎町の街外れで、ロヴィーノは思い切り不機嫌に眉間にしわを寄せた。
結局フェリシアーノの不穏な発言だらけの手紙を受け取って心配になったロヴィーノは、1年間社会勉強をしてくるという置手紙を残し、エリザと共に大陸に渡る船に乗って海を越えて大陸へ向かったのだが、船が難破して小舟でなんとか大陸まではたどり着いたのだが、ここから陸路で目的地を目指さねばならなくなったというわけだ。
「まあいいじゃない、大陸に着いたには着いたんだし。
下手すれば海の藻屑だったことを考えれば十分ラッキーよ」
小さな田舎町から乗り合い馬車が出ている隣町まで徒歩で向かう途中にとった休憩を終えると、立ちあがってぱんぱんと埃を払ったエリザはそう言っていまだ座り込んでいるロヴィーノに手を差し伸べる。
「…確かにそうだけど…急いで駆けつけてフェリシアーノが犯罪者にならねえうちに捕まえねえとだし、アーサーも保護してやんねえとだから」
とロヴィーノはその手を取って立ち上がった。
「ロヴィーノって、意外にあれよね、使命感に燃えやすいタイプ?」
フフッと笑って放り出された荷物を背負うエリザ。
「放置で平気なら面倒な事しねえよっ。
でも自分の周りが性犯罪者だらけとか普通に嫌だろ」
「いや…同意って言ってたじゃない。ギルは」
「だから、“強引にやったけど”ってつく同意ってなんだよ?」
ロヴィーノも荷物を拾いあげると、ため息をついた。
「あ~…それは……」
「とにかく、事情聞くまでは安心できねえ。
つか、フェリシアーノはすでに襲う気満々だしな。いいから行くぞっ!」
ロヴィーノはカバンを担ぎあげると、街の方へと先に立って歩き始めた。
「こっちはうちの国より随分さみぃのな」
島の中ではかなり暖かい南西育ちのロヴィーノにとっては、大陸はずいぶん寒く感じるようだったが、こっそり北や東を転々と渡り歩いていたエリザにしたら、やや肌寒いとは思うものの、そこまでには感じなかった。
「これ、着れば?」
そこで羽織ってたマントを差し出したが、ロヴィーノはそれを手で制した。
「イラね。気持ちだけもらっとく」
「あたしはぜんっぜん寒くないから、着れば?」
さらに勧めたがそれにもロヴィーノは首を横に振った。
「いや、当分こっちいるからな。こっちの気候に慣れねえと…」
「へ~…」
ロヴィーノの言葉にエリザはぴゅ~っと口笛を吹いた。
「なんだよ?」
不機嫌に振り返るロヴィーノ。
「いやいや、怒んないでよ。感心してんだから」
「感心?」
怪訝そうに眉を寄せるロヴィーノに、エリザはニカっと笑みを見せてうなづいた。
「ロヴィーノ君って王宮育ちのわりに意外にしっかりしてんのねって」
「ああ?どうせ世間知らずだよ」
「もう、そういう意味じゃないわよ。
人ってね、厳しい環境だとそりゃしっかりするしかないわけだけど、甘やかしてもらえる環境でしっかり出来る奴って本気ですごいと思うわよ」
エリザの言葉にロヴィーノは小さく息を吐き出した。
「あのな、わりぃけど、俺はあんたよりよっぽど貧乏な育ち方してるし。
フェリシアーノと違って俺は長男だったから、基本的には領地で出来る範囲のもので食っていかなきゃならない立場で、その領地がほとんど資産なんかないに等しい小さくて痩せた土地なのに王宮の生活で最低限の身なりを整えないととなったら、削るのは食費とか生活費だ。
体裁を整えるためにぎりぎりの生活してっと嫌でもしっかりはするぞ」
「あ~…ごめんね。なんか上から目線だった」
「いや、まああんたのせいじゃないから」
とロヴィーノは淡々とそう言う。
そしてただ、なんとなく昔に思いをはせた。
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