続聖夜の贈り物_5章2

「“兄ちゃん、急にいなくなっちゃってごめんなさい。
でも俺、兄ちゃんが戻る前からずっと、俺に何ができるのか考えてたんだ。
でね、古書読んでて見つけたんだ。みんなが平和に幸せになれる方法。
カトル・ビジュー・サクレってね宝玉を…(以下略“
…ってけなげやん」

アントーニョは手紙を読みあげつつ感想を述べていく。


それに対してロヴィーノは自分の読んでいた便箋を放り出し、
「その先の一文がなけりゃな」
と、肩をすくめた。

「その先?」
さらに読み進めるアントーニョ。

「“それにね、国を離れればもう王子でも臣下でもなくなるから、ルートもちゃんと俺を一人の人間としてみてくれるかなぁって。
今のままじゃ裸でベッドにもぐりこんでも『風邪をひいたらおおごとだから、服を着ろ』って言われて終わっちゃうんだよ”
…これか」
「それだ」
嫌そうに答えるロヴィーノに、アントーニョは少し考え込んだ。

「なんかやなん?」
「普通やだろ」
「行動が?それともこの二人がってこと?」
「両方」
ギルベルトの問いにロヴィーノは即答する。それに対して
「そうなんかぁ」
ギルベルトはくしゃくしゃっと頭をかいた。

「あのな…親分の立場で言うたらまずいんかもしれへんけどな…」
「今更だろ、言えよ」
「うちんとこのジジイ、めっちゃガキいっぱいこしらえてんやん?」
「ああ、そうだな。王宮に限った上で俺が知ってるだけでも、ローデやお前の他にも、新近衛隊長のバッシュ・ツヴィンクリあたりはジジイが手出した女の孫だな」
「せやろ?地方の貴族でもぎょうさんおるし、せやから、なんちゅうか…直系に近い王族やから子ぉ作らんとってわけでもないんちゃう?
そしたら別に好きな奴がたまたま男でも問題ないやん?」

「………そういう問題じゃねぇ……」
ふいっとロヴィーノは顔をそらした。
「んじゃ、どういう問題なん?」
それを追うアントーニョ。

「……気持ちわりぃ…」
「男同士が?」
「いんや…自分の身内が知ってるやつとそういう事すんのが。知らねえ奴ならまだマシなんだけどな」
「あ~、そっちかっ」
ようやく合点がいったというように苦笑するアントーニョ。

「さらにあれやんな。ルートの元親のも男の子拾うて特別に可愛がっとるっちゅうことやしな。王室中そんなんなのもあるんか」
「あ~、あれは別にいいんだ、あれは」
「ああ?そうなん?」
アントーニョは少し目を丸くする。
「ああ。ギルベルトは元々女より男だろ。
気持ち的にはわかんねえけど、戦場渡り歩いてたら女もいねえし。
浮いた話がねえってことは、男で処理してたんじゃね?」
「ほ~。意外にみてるもんなんやな」
「まあ逆に変な女にひっかかって王族の血をあちこちにばらまかれるよりは平和な気がする…けど」
「けど?なんなん?」
そこで言葉を切って考え込むロヴィーノに、促すアントーニョ。

「いや…なあ?」
「ん?」
「あれさ、大丈夫だと思うか?」
「なにが?」
「ガキを無理やり手込めにしてたりしねえよな?」
ブ~っとアントーニョは勢いよくカフェラテを吹きだした。

「…っんだよ、きったねえなっ」
嫌そうに顔をしかめるロヴィーノに反論しようにも、むせて咳き込んでいるアントーニョは言葉がでない。

ローデが心底嫌そうに
「あなたがた、本当にお下品ですね」
と、差し出すハンカチで口元を拭くアントーニョに構わず、ロヴィーノは一枚の便箋を手に取って読み始めた。

「“こうして王さんの所から戻った時、俺とルートは全く寝てないギルベルト兄ちゃんに休んでもらおうと思って先に部屋に戻ってって言ったんだけど、ギルベルト兄ちゃんはよっぽど今回の事が堪えたのか、アーサーの手をしっかり握ったまま部屋に戻っていったんだ。
で、俺とルートで心配して待っててくれたみんなに報告して回ったんだけど…(以下略)
翌朝ね、二人とも起きてこないから、俺、疲れてるのかな~って思って放っておいたんだけど、昼になっても起きてこなくて、さすがに心配になって、食事持ってギルベルト兄ちゃんの部屋にいったんだ。
そしたらギルベルト兄ちゃん起きてたみたい。
全然元気そうで、ドアの所で食事だけ受けとってくれたんだ。
俺が『アーサーは?』って聞いたら『疲れてて起きられねえみたいだから、明日くらいまで放っておいてくれ』って言われたんだ。
で、俺その時は『うん。じゃあ夜もこっちに運ぶね』って言って戻ってきたんだけどね。
結局それから俺がアーサーに会ったのは次の日の昼。
やっぱりギルベルト兄ちゃんにしっかり手を掴まれて食堂に降りてきたんだけど、なんだかやつれてるし、目は真っ赤だし、なんていうか…恥ずかしくて居た堪れないって感じの表情してて、あ~、これはギルベルト兄ちゃん、襲っちゃったのか~って思った。
うん、俺ちゃんと黙ってたよ?
すごいよねっ、この時俺、ちゃんと空気読んだんだよっ“」

そこまで読むと、ロヴィーノは便箋を机に置いて、は~~~っと長い溜息をついた。


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