続聖夜の贈り物_3章11

香のかおりがたちこめる薄暗い室内には中央にたった一つベッドがあるのみ。
大の大人が二人くらいは優に寝られるくらい広いそのベッドには一面に白い菊の花。
その白さに埋もれるように、アーサーが眠っていた。


「なんで…息してないんだ…?」
おそるおそる近づいて顔の上に手をかざしてみても、呼吸をしている様子はなく、慌てて脈を確認しようと触れた白い首筋はひんやりと冷たくなっていた。

「なんで…?おい…嘘だろ?なあ、嘘だよなっ?!」
どんなにゆすっても叫んでもアーサーはピクリともしない。

「返事してくれよっ!!馬鹿でもなんでもかまわねえからっ!
なんでもいいから返事してくれっ!!!」
目の前の現実を信じたくはないのに、涙が止まらない。

「なあっ!!こんなのやめてくれっ!!目、あけろよっ!!!
こういうのほんと冗談にならねえからっ!俺様心臓止まっちまうからっ!!!本当にやめてくれっ!!!」

冗談にしたいのに…すぐに『だまされたな、ばあかっ!』と笑って欲しいのに…呼吸を止めた体はギルベルトにされるまま力なく揺さぶられ続ける。

「なんでなんだよっ?!俺様なんかアルトの気に触る事したかっ?!
だったら謝るからっ!!何回でも謝るし、土下座だってしてやるからっ!!!
マジ、こんなんやめてくれっ!!!!」

心臓が握りつぶされてぐしゃぐしゃになっていく気がする。
呼吸ができない…。

「嫌だ…こんなん嫌だ……。
なんで?なあ…なんでこんなひどい事するんだ?
こんなの…自分が殺された方がましだ…
どうしても死にたかったんだったらせめて待っといてくれよ…。
一人で逝くくらいなら一緒に連れてってくれたら良かったんだ…」

「それじゃあ本末転倒ね。その子はそれを望まなかったから一人で逝ったあるよ」
扉のところで王が淡々と言った。

それは事実なんだろう…この子は悲しいほど優しい子だ…でも本当にわかってない…。
とギルベルトは胸が締め付けられそうな気持で思う。

「…お前、全然わかってねえ…わかってねえよっ、この馬鹿野郎。
大事な大事な…本当に大事な相手を守りきれないで死なせてしまう事くらいつらい事なんてないんだぞ?
目の前でこんな風に…自分が守ってやれなかった現実を突きつけられるくらいつらい事ないんだぞ…。
この世のつらいこと全部代わってやりたかったぜ。
俺様な、お前を幸せにできるんだったら、どんな事でも耐えられたんだ。
つらい事なんてなんにもなかったっ。
親もいなけりゃルッツも城に返しちまったからな…
俺にはお前の他にはなんにもなかったし、お前さえいてくれれば、他にはなにも要らなかったんだ。
お前だけが俺のこの世の幸せの全てだったのに…
それなくしてどうやって幸せになれっていうんだ?!
お前がいなくなった時点で幸せになんてもうなれねえよっ!!」

ギルベルトはギュッと抱きしめていたアーサーから少し体を離した。
そして涙をグイッとぬぐう。

「なあ、仙人。頼みがあるんだけど…」
そこでギルベルトは王を振り返った。

「死人生き返らせろとかいう無茶あるか?」
小さく肩をすくめる王に、ギルベルトは苦笑する。

「そこまで無茶言わねえよ。
単にな…燃やして欲しいんだ。俺もこいつも灰になるまで燃やして一緒に埋めてくれ」

「……お前は…馬鹿あるな」
王は心底あきれたようにため息をつくが、ギルベルトは大まじめに言う。

「馬鹿じゃねえよ。小さな小さな砂のレベルで一緒に混じり合いてえ。
そうしたらもうずっと一緒だろ。
普通の状態で一緒に埋めても、ぴったり隙まなしってわけにはいかねえし。
小さな隙間程度も離れるのもう嫌なんだよ」

「…一緒に死ぬのが前提か……そんなに好きあるか?」

「当たり前だろっ。
全てを失くして自分の存在すら軽すぎて吹き飛んじまいそうなところにようやく手に入れた大事なもんがアルトだったんだ!
アルトのためなら何でもできたんだっ。
世界中敵に回したって、世界滅亡させたってかまなかったっ。
こいつだけなんだよっ。俺様の人生で必要だったのはこの子ただ一人だったんだっ。
こいつを亡くした時点でこの世界なんて何も意味ねえよっ!
代わりなんていねえっ。むしろどうしても死ぬって言うんなら先逝って道整えてあの世でも手ぇ引いて歩いてやりたかったくらいだっ」

「お前は…それを伝えたあるか?」
ふと思いついたように聞く王に、ギルベルトは大きくうなづいた。

「もちろん。何度も何度もくどいくらい伝えたんだけどな……
死んだって地獄の底まで追ってくとまで言ったんだぜ?
でもこいつ手強いっていうか…めちゃくちゃ悲観的なんだよ。
……信じてもらえんかったみたいだな。
だから有言実行してやんだ。
俺様は諦めねえぞ。本当にに地獄の底まででもおいかけてやる」


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