続聖夜の贈り物_3章09

おそらくここの館の住人以外ほとんど目にした事のない霊山の頂上の景色。
高山のためか霞みがかった空気の向こうには大きな館。
といっても豪奢な感じはなく、質素な母屋からなんだかつぎはぎのように部屋が足されている感じだ。


「ここは昔は師匠が一人で住んでたらしいんすけどね、俺らみたいな子供一人二人引き取る度部屋足してって、こんな笑える屋敷になったっぽぃっすよ」
とおそらく聞かれるであろうと思ったのか、少年が勝手に解説を始める。

「へ~、面白いね~」
といちいち感心しながらぴょこぴょこ付いて行くフェリシアーノ。

普段なら自分の手の届く範囲にフェリシアーノを置いておくルートも、霊山の上ののどかな空気に釣られてか、ゆっくりと周りを散策しながらついていっている。

確かに警戒心の足りないアーサーなら普通に付いて行ってしまいそうなのどかさだが、今度からはいくら怖くなさそうな相手でも知らない人に付いて行ってはダメだという事から教えなければ…と、ギルベルトは思った。

「あ~、菊さん、丁度良い所にっ」
突然少年が駆け出した先には見事な菊の花の中を散歩する少女…かと思えば
「ああ、香さん、お客様ですか?」
と声をきけばどうやら少年らしい。

「あ~あの子がアーサーと一緒にいた菊?」
フェリシアーノも少年を追う。
「ちゃお~。俺フェリシアーノだよっ。宜しくね♪」
と言ったあと、あ…と気付いたように
「ち~すっ…だったよね?」
と、初め少年香がやったように二本指を立てた手を振って見せる。

「香さん…何を教えてるんです…」
菊が少し柳眉を寄せて小さく息を吐き出すと、香と呼ばれた少年は悪びれず
「いいじゃないっすか。挨拶くらい。
それより菊さんの拾ったウサギさん?の連れらしいっすよ。
耀は連れは案内していいって言ってたから連れてきたんすけど、どうすればいっすか?」
と、ちらりと後ろを見やる。

「あ…アーサーさんの…」
サラリと音がしそうな綺麗な黒髪を少し揺らして小首をかしげる菊。

声さえ聞かなければその様子は可憐な少女のようで、なるほど警戒心など起こさせる要因がどこにもない。
可愛いモノ好きなアーサーがフラフラと付いて行ってしまうのもうなづける、と、ギルベルトは納得した。

「悪いんだけどな…アルトを返してもらえないか?」
アーサー自身が望んだからここに連れてきたのだろうと言う事が容易に想像できてしまって非常に面白くない。
つい言葉に険が混じる。

しかし菊は気を悪くする風でもなく、むしろ申し訳なさげに
「申し訳ありません。偶然お会いしてお話するのが楽しくて、私が無理にお誘いしてしまいました。アーサーさんを怒らないで差し上げて下さいね」
とコクンと頭を下げる様子に、毒気を抜かれる。

「あ~、あいつ前にもちょっと倒れてた事あって、今回いきなりいなくなったんですごく心配してたんで、キツイ言い方して堪忍な」
片手を頭の後ろにやって眉尻を下げるギルベルトに、菊はにこりと微笑んだ。
「大切に思っていらっしゃるんですね?」
との言葉に
「おうっ、もちろん!むちゃくちゃ大事にしてるぜっ。
あいつより大事なモンなんてこの世にないし」
と迷わず答えるギルベルト。
その様子に菊はほぅっと胸をなでおろした。

「それを聞いて安心しました。なんだかずいぶん気落ちなさってたので、アーサーさん」
「あ~、アルトはなんていうか…すげえ落ち込みやすいんだ。
もしかして慰めてくれてたのか。ありがとな」
「いえ、私もちょっと落ち込んでいて、お話を聞いて頂いていたので…。
とりあえず今はこの館の主がアーサーさんにお話があるということで話しておりますので、ご案内しますね」
菊はそう言うと、香にうなづいて王に伝えるよう目配せをする。

そして香が一足先に走っていくと、
「ではこちらへ」
と、自分が先に立って歩き始めた。


「菊さん、耀がちょっと薬草足りないから調合しておいて欲しいって。客の案内は俺にやれって言うんでチェンジ。」
館に入ると母屋から香が走ってきた。

「薬草…ですか。わかりました。」
菊は釈然としない様子で、それでも薬品を調合する用の離れへと向かう。

「んじゃ、こっちっす」
それを複雑な表情で見送って、3人を母屋へと促した。


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