街の人達の協力の元に馬を借りて、ギルベルト達3人が庵についたのは夕方だった。
近くの木に手綱を結ぶと走りかけるギルベルトをフェリシアーノが制した。
「ね、ギルベルト兄ちゃん、落ち着いて。悪い人じゃないって言ってたから喧嘩腰になっちゃだめだよ。とりあえず俺が話をするから…」
ギルベルトは昨日から飲まず食わず、睡眠すら取ってない状態で冷静に話をできるとも思えない。
本人がその気がなくても敵意のない相手に敵意を持たれては大変だとフェリシアーノは交渉役を請け負う。
それは本人も自覚するところなのであろう。
「ん、俺様もさすがに冷静に話す自信ないし任せるわ」
と、ギルベルトはその提案を受け入れた。
「じゃ行こう」
フェリシアーノを先頭に、3人は庵の暖簾をくぐった。
「ち~っす」
「ちぃっす…?」
やや緊張気味の3人を迎え入れたのは年若い少年だった。
指を二本立ててちゃっとふりつつ言うのは彼風の挨拶なのだろうと、フェリシアーノは真似をしてみる。
少年はまずフェリシアーノに、ついで彼の後ろにいる二人に交互に目をやって少し考え込み、
「村の人間ではない的な?」
と、少し小首をかしげて、返答をうながした。
「うん、俺達ね、王さんの家の菊っていう人と一緒にいた子を探してるんだけど…。
俺達にとってすごく大事な子なんだ。知ってたら教えてくれないかな?」
極々ストレートに言うフェリシアーノに、少年は
「あ~、彼の連れ的な?
一応連れ以外は通すなって言われてんすよ。だからちょっと試させてもらっていっすか?」
と様子を伺うように聞いてくる。
「うん、もちろんだよ。ちゃんとアーサーの安全確保してくれてるんだね、ありがとう」
にこぉっと笑顔のフェリシアーノ。
それにニヤッと笑って少年は
「あ~、本物の連れみたいっすね。じゃ、行きますかっ」
と、外に促す。
「あれ?試すんじゃないの?」
少年の後を追いながら聞くフェリシアーノに、少年は
「今の問いが試しっすよ。
後ろの怖い兄さん達はわかんないっぽいけど、あんたは少なくとも合格」
と肩をすくめて指笛を吹いた。
「フェリシアーノに交渉任せて正解だったな」
「ほんとだな。あの子めいっぱい誠意振りまいてる感じするもんな」
と後ろでこそこそささやく二人。
「怖くないよっ。
ムキムキの方はルートでねっ、優しいのっ。俺の大事な人なんだよっ。
もう一人のギルベルト兄ちゃんはアーサーの大切な人。
昨日から消えちゃったアーサーの行方徹夜で探してたからちょっと疲れちゃってるだけで、普段は明るい良い人だよっ」
少年の“怖い兄さん”発言が気になったのか、わたわた手を動かしながら弁解するフェリシアーノに、少年は
「はいはい、もういっす。わかったから」
と、クスクス笑う。
「完全に…年下に舐められてるな…」
とルート。
「ん~でもそれ言ったらお前だってフェリちゃんより年下だしな。
ああやって警戒させないのはあの子の強みだぜ?」
とそれにギルベルトが答える。
そんな会話を交わしていると、少年の指笛に応じて雲が飛んでくる。
「うわ~、これ乗れるの?乗れるの?」
おおはしゃぎなフェリシアーノに
「純粋な心の持ち主だけ乗れるっすよ?」
とにやりと人差し指を立てる少年。
「うあ~そうなんだ、緊張するなぁ~」
とおそるおそる足を踏み入れるフェリシアーノの様子に、少年はクックックと拳を口にあてて笑う。
「うそっ!嘘っす!うちの馬鹿兄弟子でも乗れるくらいっすから超平気!」
「え~。本気にしちゃったよ」
とホッと息を吐きながらフェリシアーノはぴょんと雲に飛び乗った。
そんなのどかなやり取りの後、後ろの怖い兄さん認定の二人も乗り込み、雲は一路霊山の頂上へと向かう。
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