アーサーはごくりと唾を飲み込んだ。
「なんでそんな昔話を聞かせたかと言うと…お前が弟と同じ、宝玉に選ばれし者だからある」
「え??」
「もしかしたらおとぎ話と思ってたかもしれないが…カトル・ビジュー・サクレは本当に存在するモノね。
で、選ばれし者ということは…話聞いてたらわかったと思うが、宝玉の力を引き出せる唯一の者として、その力を欲する者達に追われる事になるね」
さきほどまでの穏やかな様子が嘘のように真剣な鋭い目線になる王に、それが嘘ではないことを自覚させられる。
「そこでお前が取れる道は4つ」
「…4つ?」
オウム返しに聞き返すアーサーに王はうなづいた。
「一つは…力を欲する者に協力して力をくれてやる事。これがお前的には一番楽あるが、下手をすれば世界を破滅に導く可能性もある」
さすがに…それはできない…と、思う。
自分はともかく、ギルベルトやフェリシアーノのいるこの世界を破滅させるわけにはいかない。
「一つは自らが欠片を集めて正しいと思う事、もしくはくだらない他の何にも影響しない程度の事に使って、時間を稼ぐ事。
力は一度使うとお前が生きている間くらいは使えなくなるから、周りがお前を追う意味がなくなるね。
ただし…簡単には集められるものじゃない上に狙われながらの作業になるからそれなりの覚悟がいるあるよ。
さらにもう一つは逃げ隠れしておくこと。
まあ…敵も血眼になって探すだろうから、まだ自分で探した方がましね。
これはお薦めしないある」
そこで王はちょっと言葉を選ぶように考え込んだ。
「で?最後の一つは?」
アーサーがうなづくと、王は少し眉を寄せてためらいをみせた。
「もう一つあるっていったろ?」
と、それでもアーサーが食い下がると、仕方ないというようにため息をついて言う。
「弟と同じね。死ねば選ばれし者として追われる事はなくなるね」
「…死……」
ああ…その手があったのか…。
暗い安堵がアーサーを包む。
一人で4つの欠片を集めるのは無理だ。
でも…そんな危険な事だと知られてしまったら、おそらく協力せずにはいられないお人よし二人を巻き込む事になる。
ただ可哀想な自分に同情して側にいてくれるお人よし達にそこまでの犠牲を強いる事はできない。
「テイっ!」
グルグルとそんな事を考えていると、頭に軽いチョップが降ってきた。
顔をあげると呆れ顔の王。
「お前は…他人の話を全くきいてなかったあるね」
「…?」
ぽか~んと見上げるアーサーに、王は両手を腰にあててがっくり肩を落とす。
「お前は…ホントに弟の気持ちを察する事はできても、兄がどんな気持ちになったかなんて全くわかってないある。
もういいね。そんなに死にたいなら一度死んでみるといいね。
馬鹿は死ななきゃ直らないというし」
言って王はスタスタと部屋の奥へ行くと、ガタガタと棚を漁る。
「ああ、あったね。特別サービス。眠るように楽に死ねる薬あるね。」
コトリと目の前に置かれる香水の小瓶のような小さな瓶。
「運命と戦う覚悟がないなら、確かに撤退も戦略ある。
下手に悪しき者の手に渡るよりは世界のためでもあるね」
さあ…と、促されてアーサーは小瓶を手に取った。
「残される者に伝える事があれば伝えてやるあるが?」
キュっと瓶のふたを開けた時、王が言うのに、少し考え込む。
伝えたい事…アーサーは心の中で繰り返した。
「…ありがとう…俺はもう十分幸せにしてもらったから…もう安心して俺を忘れて自由になってくれ。今度はお前が幸せになれる事を祈ってる…かな」
誰よりも好きだった…と伝えたい気もしたが、それを言えばきっと優しいギルベルトはその言葉に縛られてしまう。
自己満足のためにギルベルトの未来を縛ったりは出来ない。
「お前は……もう見事なまでにわかってないあるね…」
呆れかえる王。
自分的には言ってはいけない言葉を避けたつもりだったのだが、何かまた間違ったのだろうか…。
アーサーは少し首をかしげたが、まあいいか…と思いなおした。
これを口にすれば良い事も嫌な事も楽しい事もつらい事も、全ての想いから解放されるのだ。
もう誰の迷惑になる事もない事にホッとする。
「王…ありがとう」
最後にアーサーはそう王に笑顔を向けて、瓶の中身を飲みほした。
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