兄弟弟子の二人で仲良く対の水柱になって1年が経つ。
たいていは任務も二人一緒だったのだが、今回は久々に別々の任務だった。
義勇に少し遅れて任務を終えた錆兎は急いで自宅、水柱邸に戻る。
離れている時はいつもそうだが、今回は特に急いでいた。
なにしろ今日は2月8日。
義勇の誕生日だ。
報告は鎹鴉に任せ、帰る途中にカステラを買って、注文していた店に寄って贈り物用の舶来の万年筆を受け取って家までひた走る。
そうして家にたどり着いてガララっとドアを開けて帰宅を告げるが、いつもなら迎えに出てくれる相方の姿がない。
え??
もしかして誕生日だからと他の柱か炭治郎達にでも呼び出されたか?と思って、錆兎がやや気落ちをしながら奥へ進むと、なぜか居間の方から複数の泣き声がする。
「……??」
一人は義勇なのは間違いはない。
昔から義勇は泣き虫だった。
子どもの頃から聞き慣れた泣き声。
13で鬼殺隊に入って4年。柱になってからは1年経ち、さすがに泣き虫は治るかと思ったらそういうわけでもなかった。
確かに外ではあまり泣かなくなったが、家に帰ればよく泣いた。
だからまあ、義勇が家で泣いているというのは錆兎的にはそれほど驚くに値はしない。
しかし一つおかしいのは、その泣き声だ。
青年期になって声変わりをしたあとのやや低い声ではない。
どこか懐かしい高い声であることだ。
さらに問題なのは義勇ではない方の泣き声である。
どう考えても大人じゃない。
子ども…いや、赤ん坊???
自分と義勇、二人暮らしのはずの館に響く赤子の泣き声に驚いて駆け込んだ居間で、錆兎は一瞬反応に困って立ち尽くした。
なんだ…これ…。
大小の義勇が泣いている。
大の方も何か違う。
強いて言うならば細く小さい?
「…おい…何が起こっているんだ…」
とりあえずちっちゃい方は赤ん坊なので、事情を聞こうなどと思ってはいけない。
錆兎は何やら怪しい紫っぽぃ何かが入った哺乳瓶を手に号泣しているおっきい方に声をかけた。
「桜が…ずっとミルク飲まないんだ…死んでしまったらどうしよう……」
錆兎は、ヒックヒックとシャクリをあげながら義勇が言うその言葉にまずつっこんだ。
「ミルクって……まさかその怪しい液体じゃないだろうな?」
いやいやありえない。
飲まないより飲んだ方が死ぬんじゃないか?それ…
と、錆兎が青くなると、義勇はキョトンと
「怪しい液体ってなんだっ」
と言う。
いや、お前が持っているその不気味な紫のソレしかないだろう?
それを怪しいと言わず何という?
と、錆兎は声を大にして言いたい。
断固として主張したい。
……が、
そんな二人のやり取りに、か細く泣いていた赤ん坊は第三者に気づいたらしい。
「…まんま……とぉた……まんまぁ……」
と、こちらも必死な形相で短い手足をバタバタさせながら這いずってくる。
そこで錆兎はふと我に返った。
それより先にこちらについて突っ込むべきだ。
というか事情を聞きたい。
だが、目の前の憐れな小動物を放置するわけにはいかないだろう。
「はいはい、お腹ペコペコだよなぁ。可哀想に」
例えそれが事情がよくわからない赤ん坊だったとしても、自分で何もできない幼子である以上すべからくきちんと保護すべきである。
飢えさせたまま放置なんて虐待だ。
…とそんな堅苦しい理屈とは別に、抱き上げた瞬間、その柔らかさと温かさに愛おしさがこみ上げてくる。
なにしろ真っ黒な髪に綺麗な青い目の、義勇にずいぶんよく似た…つまりはたいそう愛らしい顔立ちの赤ん坊なのだ。
可愛くないわけがない。
ふと炬燵に視線を落とすと、キノミールと書いた缶。
ああ、これは知っている。
確か最近開発された粉ミルクというやつだ。
よくはわからんが、ミルクというからには白いものではないのか?
そう思って覗いて見ると、中には白い粉末。
説明書を読んでみる。
なるほど…これを少し冷ました湯で溶かすんだよな?
錆兎は、そう納得すると、
「義勇、俺が作ってくるから、くれぐれもそれを飲ませようとするなよ?」
と、念を押して赤ん坊を義勇に預けた。
そうして錆兎は湯を沸かして冷まし、ミルクを作る。
…当然中身は白い。
それを持って居間に戻ると、赤子は義勇の腕の中でものすごい勢いで泣きながら錆兎の方へと手を伸ばす。
それを抱きかかえて錆兎がミルクをやると、チュウチュウどころの話ではない。
ゴン、ゴン!と言った勢いでミルクを一気飲みした。
よほど腹が減っていたのだろう。
よくよく見ると小さい歯も生えているし、離乳食も食べられそうだと思い、ついでにと錆兎がすりおろして持ってきたりんごのペーストも食べさせてみたら一気に平らげて、ようやく落ち着いたようだ。
お腹がいっぱいになったらご機嫌になった赤ん坊をとりあえずまた義勇に預けて、錆兎は今度は大人の食事を作り始める。
米を研ぎ、義勇の好きな鮭大根を作るため、大根を下茹で。
一段落ついたところで居間に様子を見に戻れば、こちらも涙が止まったらしい義勇は泣き疲れたのだろう。
炬燵ですやすや眠っている。
赤ん坊は退屈したのかぺたんと座ったまま義勇の肩をぺちぺち叩いているので、
「よしよし、お前はこっちだ」
と、錆兎は赤ん坊を抱き上げると、台所との扉を開け放して大根の様子を見えるようにしながら炬燵に座った。
スノ様、いつも楽しくて面白くて素敵なお話の数々を本当に本当にありがとうございます🙇♀️🙇♀️
返信削除錆兔がラブラブであるシチュが大好物な私にとってここは夢の国…!癒やしとトキメキが溢れる素晴らしい所で、スノ様は夢の国の女神様です!
何度お礼をお伝えしても足りる気がしませんが、とにかくこの幸せをありがとうございます!
コメントありがとうございます。
削除やはり推しには愛あふれる環境で幸せで居て欲しいですよね✨
同じシチュが好きな方がいらして嬉しいです💕