続聖夜の贈り物_3章04

働かざる者食うべからず、あ~んど、適材適所。
魔法の使えるアーサー、戦闘力のある自分やルートに比べて、フェリシアーノが貢献できる事は極端に少ない。
そこでギルベルトはフェリシアーノの最大の長所、人懐っこさを生かしてもらう事にした。
簡単に言えば…街の人達と仲良くなって、情報を集めてもらうのだ。


そのための足掛かりとして、まず自分の仲良くなったおばちゃん達に引き合わせるべく市場までやってきたのだが、フェリシアーノの対人能力は期待以上だった。
自分の従兄弟として紹介したのだが、あっという間にギルベルト以上におばちゃん達に馴染んでいった。

元々話をするのが好きなのだろう。むしろギルベルトよりよほど盛り上がっている。

「あのね、あっちにいるムキムキがルート♪俺の一番大切な恋人なんだよ♪」
男同士とかそういうためらいはないらしい。
あまりにあっけらかんと当たり前に言うので、皆も全く不思議に思わないようだ。

「そういえば…ギルベルトちゃんも駆け落ちしてきたって…」
そういう話題が大好きなのが女性。
おばちゃん達も例外ではなく、目を輝かせる。

「うん、ルートの隣にいる子がそう。可愛いでしょ?俺とも一番の親友なんだよ♪
でも本当にあまり外にも出た事ない子で人に慣れてないから放っておいてあげてね」
フェリシアーノの言葉におばちゃん達の視線が一斉にルートヴィヒの隣のアーサーに注がれる。

「ギルベルトちゃん……もしかしてすごく年下好き?というか…まだそういう対象には早い年なんじゃない?」
やはりそう見えるか…と、ギルベルトは苦笑した。

「年なんて関係ないっていうか…ただ一緒に生きていきたいだけなんだ。
家いると一緒にいるのも許してもらえねえから…
もちろんまだエロい事とかはしてないからっ!
ちゃんと大人になるまで待つつもりだ」
さすがにおばちゃんとはいえ、女性相手にそういう会話は恥ずかしい。
というか…同じ感覚でおしゃべりできるフェリシアーノはすごいと思う。

ギルベルトがさすがに少し赤くなりながら言うと、おばちゃん達は
「純愛ねぇ…」
と、それはそれは楽しげに盛り上がっている。

盛り上げ役はこの際フェリシアーノに任せてと、ギルベルトがどうやらバトンタッチできた事にホッとして一息ついていると、それまで少し離れてこちらを見ていたルートがかけよってきた。

「あれ?アーサーは?」
そちらに目を向けても当然一緒にいると思っていたアーサーがいない。

ギルベルトが聞くと、ルートが言う。
「ああ、今それを伝えにきた。
少し気分が悪いから、あちらのベンチで休むと…宿に連れ帰った方がいいだろうか?」
「フェリちゃん頼むわっ」
その言葉でギルベルトは返事を待たずに駆け出した。

自宅で一緒に暮らしていた時も倒れていた事があったアーサーの事だ。
また倒れていなければいいのだが…

そう思って急いでそれまで死角になっていたベンチへと向かったが、誰もいない。
(…アーサー……)
一気に血の気が引いた。

「ルッツ!!いねえぞっ!!」
即取って返してルートにむかって叫ぶ。

「あっちのベンチだよな?!」
「ああ、そう言っていたのだが…」
ギルベルトの剣幕にルートも緊張を高めた。

「いなくなっちゃったの?!」
それまでおばちゃん達と話していたフェリシアーノも話を中断して、聞いてくる。

「まじか…アルトに何かあったら…あいつにもしものことがあったら…」

嫌な記憶がよみがえる。
体の震えが止まらない。
血を流してだんだん弱っていったあの時のアーサーの姿がフラッシュバックする。
絶望感に目の前が暗くなった。

「大丈夫かっ!!」
倒れかけたらしい。気がつけばルートに腕を取られて支えられていた。

「なあ、アルトに何かあったらどうしよう?!死んじまったら!!」
頭がガンガンして何も考えられない。

急に真っ青になって不穏な言葉を吐くギルベルトに驚くおばちゃん達に、フェリシアーノがフォローを入れる。

「えっとね…体弱い子なんだ。だからどこかで倒れたりしてるかもだし…
おばちゃん達も探すの手伝ってもらえる?」
「もちろんよっ!あの真っ白な服は目立つし、他の皆にも声かけてあげるからっ!」
おばちゃん達はそう言って散っていく。

「ギルベルト兄ちゃん、大丈夫だよ!みんな探してくれるし、すぐ見つかるから!」
かけよってそういうフェリシアーノの声も耳に入らないようだ。

「探さねえと…あいつ探さねえと……」
ブツブツとうわごとのようにつぶやきながら、ギルベルトは駆け出して行った。


連絡係にフェリシアーノがその場に残って、ギルベルトとルート、それにおばちゃん達が集めてくれた市場の大勢の人達で探したが、アーサーは見つからなかった。

大事なモノは一度手にしたらしっかりと抱え込んで絶対に手を離してはいけない…。
わかっていたはずなのに、何故自分はそうしなかったのだろう。

ギルベルトは後悔と自責の念で気が狂いそうだった。
カークランドの名を持つ者として恨みを持つ者に連れ去られたか、単純に普通に何も知らない人間に連れ去られたか、もしくは探しきれてない場所で倒れているのか……

どちらにしてもここまで見つからない時点で普通の状況ではありえない。

「交代で探して見つかったら連絡いれてあげるから、あんた達はちょっと宿に帰ってなさいよ」
すっかり血の気を失ったギルベルトを心配して、人のよいおばちゃん達がそう提案してくれるが、
「こうしてる間にもあいだに何かあったら嫌だし、俺様は残る。
アルトに何かあったら生きていけねえ。フェリちゃん達は宿戻れ」
と、状況をききにいったん戻ってきたギルベルトはまた雑踏の中へと走って行った。

「…ギルベルト兄ちゃん……」
フェリシアーノは困ったように眉を寄せると、ルートを見上げる。
その視線に気づいたルートも少し困ったように眉を寄せた。

そして
「俺が目を離したせいでもあるからな…。
俺も残るからフェリシアーノは宿まで送ってもらってくれ。
アーサーももしかしたら宿に戻る事もあるかもしれないしな」
と、ポンと軽くフェリシアーノの頭に手をおいた。


「仙人王?」
その情報が入ったのは翌朝の事だった。
ねこのみみ亭の酒場の片隅でルートに寄りかかるようにうつらうつらしていたフェリシアーノは、眠い目をこすって体を起こした。

「東の霊山の上にいる不思議な人なんだけどね…」
と、おばちゃんは仙人王について一通り語ってくれたあと、
「でね、そこの子で菊ちゃんていうしょっちゅう下降りてくる男の子がいるんだけど、その子がね、お人形さんみたいに綺麗な真っ白な服の子を連れて歩いてたのを今日来たお客さんが見たっていうのよ」

「それだ!間違いないよっ!で?どこに行けば会えるの?」
眠気が一気に覚めたフェリシアーノが身を乗り出した。
いつも眠そうに細められているその目が珍しくぱっちり開いているあたりで、彼の本気が伺える。

おばちゃんの話によると、霊山の上まで行くのは無理だが、山の麓には彼との連絡用となっている庵があるとのこと、
「聞いたでしょ、ルートっ。俺ここにいるからギルベルト兄ちゃんに伝えてきてっ!」
フェリシアーノは隣のルートにそう言うと、さらに話をきくためにおばちゃんの方を振り返った。




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