続聖夜の贈り物_1章03

”ねこのみみ亭”それが4人の当座の宿泊場所となる宿の名だ。

フランシスの紹介で見つけたその宿は、乱暴者の冒険者達でも簡単につまみだせる腕はたつが目つきの悪い大男オランと、店の名前の由来でもあるのだろう、何故か常時猫耳装備の愛想のよい若い女性ベルの兄妹で切り盛りしている、冒険者相手の宿としては治安がいいと評判の宿屋である。


どのくらい治安がいいかと言うと…最初にアーサーとフェリシアーノを伴って宿に入ったギルベルトとルートを、オランが少年趣味の誘拐犯として役所に付きだそうとした程度には……

いやいや、でもさりげなく二人の事は自分が責任持って面倒みるから安心して臭い飯食ってこいと言っていたあたりで、お前の方が少年趣味の誘拐犯なんじゃね?とギルベルトは思ったわけだが……。
治安……いいのか?本当に??

結局あとから来たフランシスのとりなしで誤解はとけたわけなのだが、オランがその時『チッ!』と舌打ちしたのをギルベルトは忘れない。

「お連れさん、童顔やしなぁ。うちのお兄ちゃん、ちょっと子供好きすぎるんですわ。
”好き”で終われば平和なんやけど、”すぎる”がつく時点であかんなぁとは私も思いますわ。せやけど、いまさら治るもんやなし。堪忍な」
とりなすように言うベルの言葉も全然とりなしになってないぞ、おい…と思わないでもない。

それでも下に併設している酒場兼食堂で食事をする際には、他の酔っ払いがこちらのテーブルにちょっかいかけようとすると、手にした大きめの固そうなキセルでバキ~ン!と殴り倒したあと、つまみだしてくれるし、主人のオラン本人の事をのぞけばまあ治安は保たれている。

部屋はそれぞれ個室。
二人部屋×2で良いと言ったのだが、相変わらずギルベルトを胡散臭げな目で見ているらしいオランが、アーサーと二人部屋にするくらいなら思い切り出血…それこそ出血多量で失血死そうな出血大サービスや…と、言いつつ、二人部屋×2の値段で個室×4を用意してくれる事になった。
精神的にもお財布的にも余裕がない今の時点では、理由はともあれ、それはかなりありがたいサービスだ。

とりあえず頭を冷やすため、途中の露店で軽食を買って一人の部屋で夕食を済ませたギルベルトは、そのままベッドに寝転んだ。

ルートの提案は戦略的には正しい。
フェリシアーノがそういう意味で好きなのはルートで、アーサーとは単に一番仲の良いお友達という感覚なのもわかる。

フェリシアーノをそういう意味で好きなはずのルートは全く妬いていたりしないのだから、そこで自分だけ妬いているのもおかしいし、一番大人なはずなのに大人げないとも思う。

「俺様、こんなに大人気なかったか…?」
木の天井を眺めながら、ギルベルトはぽつりとつぶやいた。

アーサーが自分よりフェリシアーノの言う事を優先した形になったからだろうか…。
しかしこの先あの程度の事でいちいち腹を立てていては旅にならない。
気分を切り替えなければ…と思うものの、どうもうまくいかない。

イライラした気分を抱えたまま、眠るのを諦めてベッドから起きあがった時、コンコンと控えめなノックの音がした。


「ギル?…入って良いか?」
イライラのそもそもの原因なわけだが、心細げな声で言われて否と言えるはずもない。

「なんだ?入れよ」
と、ドアを開けると、少し暗くなった廊下をキャンドルの灯り一つ持って立っていたアーサーは、ギルベルトの不機嫌な物言いに少し身を引きかけた。

それに何故かまたイラっとしたが、自分は大人なのだから冷静にとギルベルトは
「こんな廊下に一人でいたら危ないだろ。さっさと入れよ」
と、ため息をつきながらそう促してアーサーを招き入れるとドアを閉めた。


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