双方にらみ合ったまま無言になる二人の間で冷や汗を流すルート。
そんな微妙な空気を破ったのはアーサーだった。
「だから、それができないって言ってるから、もめてんだろ?」
「両方はちょっと重すぎだよ~。動けないよ~」
と、その時だけは声を揃えるギルベルトとフェリシアーノだったが、アーサーは
「フェリ、そのペンダントって…もらっちゃってもいいか?」
と、フェリシアーノの胸元、アーサーを救出する前にフランシスからもらったペンダントを指さす。
「あ。うん。フランシス兄ちゃんにもらった物だけど別に良いよ」
フェリシアーノはそう言って迷うことなく首からペンダントを外す。
「さんきゅ」
それを受け取ると、アーサーは今度はルートを振り返り、
「盾と槍をそこに置いてくれ」
と、地面を指さした。
「ああ。ここに置けばいいんだな?」
ルートも不思議そうな顔をするものの、その指示に従う。
「じゃ、ちょっと離れてろよ。」
アーサーはパサッとローブを翻して杖を構えた。
呪文を唱えながらフェリシアーノから預かったペンダントを杖を持つ手と反対の手でかざすと、ペンダントが光に包まれ、パリン!と音を立てて割れ、光は重なって置かれたランスと盾を包み込む。
そのままクルクルと回って全てが光に溶け込むと、ポン!という軽い音と共に、光の中から何かが飛び出した。
「盾…どこ行っちゃったの?」
少し警戒して遠巻きにするギルベルトとルートを尻目に、フェリシアーノは煙の消えきらない中駆け寄って、ランスを手にした。
「うん、でもちょっと軽くなってる気がする」
ブンっと降ってみるフェリシアーノに、アーサーは説明する。
「盾はさっきのベンダントと融合したんだ。
旗みたいなの付いてるだろ?それ。
盾の粒子を使って丈夫な布を作って、ペンダント自体が魔法体制の属性を持っていたから、それと融合させる事で、物理系の攻撃は力を逃して受け流す形で、魔法にも体制もある生地型の防具のできあがりだ。ついでにランスからも余計な重さを抜いておいた」
「うっわ~~~すごいねっ!アーサーすごい!ありがと~~!!!」
ランスを持ったままのフェリシアーノに抱きつかれ、少し照れたように顔をそらすアーサー。
「魔法工学は得意なんだ。今まであまり使う機会なかったんだけど…」
「俺さ、魔法って何か攻撃したり壊したりするだけだって思ってたけど、こんなすごい事もできるんだねっ。俺これでアーサー守るよっ!」
アーサーを抱きしめたままぴょんぴょん飛び跳ねるフェリシアーノ。
「何言ってんだよ。フェリちゃんはそれで自分の身を守んのが先だろ。
アルトは俺が守るから」
そこでようやく我に返ったようにギルベルトがフェリシアーノからアーサーをひきはがして抱き寄せた。
明らかに機嫌の悪いギルベルトに、フェリシアーノはあっさりひきはがされ、少し困った顔でルートを振り返る。
ふられたルートは諦めのため息をついた。
口下手なアーサーも感情のまま口走るフェリシアーノも説得には向かない。
「確かに戦闘経験の全くない、守られた事しかないフェリシアーノに他人を守りきるのは無理だ」
いきなりのルートの言葉にフェリシアーノは
「え~?!」
と不満げな声をあげ、ギルベルトは
「そうだよな」
と満足げにうなづく。
しかしそこで続きがまだあった。
「だが実際問題、魔術師のアーサーは呪文詠唱の間は無防備になるから、たまよけは必要だ。そして…それを俺や兄さんがやると、攻撃が手薄になりすぎるし、逆に相手に攻め込まれる。だから……緊急時以外のアーサーへの流れ弾避けをフェリシアーノに任せて、アーサー自身がターゲットになった時は、俺か兄さんが下がるという形ではどうだろうか?
もとよりフェリシアーノが前に立って戦うというのは無理があるだろうし、アーサーのように魔術師ではないから、後衛といっても弓を使うくらいしかできないわけだが…
後ろから味方に射抜かれたくはないだろう?」
「…う……それは……」
さすが戦術だけではなく、フェリシアーノの事も知り尽くしているルートの説得だ。
ギルベルトも反論できない。
ルートはそういうつもりはないのだろうが、後ろからの味方の攻撃…というのはある意味脅し効果抜群だ。
ギルベルトはは~っと不機嫌にため息をついた。
「お前らがそうするって言うならそうしたらいい。行くぞ」
気持ちの整理がつかないまま、ギルベルトが背を向けて歩き始める。
「あ…ギルベルト、待てよ」
と、アーサーが慌ててそれを追った。
「ヴェ~。ギルベルト兄ちゃん怒らせちゃったね…。」
「うむ…。でもまあ…他にどうしようもあるまい」
旅の第一歩で早くも怪しい雲行きに、ルートはいつも深い眉間のしわをさらに深くしたのだった。
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