聖夜の贈り物 -幕間-俺だけのだもん3

「お兄さんさ、思い切り信用されてない?」
それぞれが出て行った後のダイニング。
誰もいないところで独り言かと思いきや、話し相手がいたらしい。


「よく気付いたね。さすがフラン」

トントンと外からノックされるのに応じて、フランシスが開けた窓からス~っと音もなく飛んできたのは空飛ぶ絨毯。
当然その上にいるのはアーサーの実家、カークランド家の三男ウィリアムだ。

「そりゃあね…お兄さん伊達に子供時代にウィルと一緒に鍛えられてないよ?
気配消してもウィルが側にいればわかる」
「うぁ~~、うっざぁ~~」
「え?ええ??何?何今の?お兄さんの言葉、愛にあふれてなかった?」
「髭男が愛とか………キモっ」
ストンと絨毯から飛び降りて、ウィリアムはテーブルの上のポットから勝手に自分で紅茶を淹れる。

「キモイって……幼馴染にそれ言っちゃう?お兄さん一応、別れを惜しむ麗しいレディ達を振り切ってカークランド家の無理聞いてあげちゃってるんですけど?」

「ねぇ、これどこの茶葉?北のにしては飲めるんじゃない?
帰りに持って帰るから用意しておいてね」

「ちょ、スルー?!スルーなの?!!もう坊っちゃんに全部ばらしちゃうよ?」

それまでフランシスの言う事を完全にシャットしていたウィリアムだが、その一言でに~っこりと口元に笑みを浮かべた。
もちろん…目は笑ってないのは言うまでもない。

「死ぬのはフランだよ?」
と一言。

「こ…怖いんですけど?ウィリアムさん??」
思わず引くフランシス。

「楽に死ねるといいねぇ…」
「ね、それ脅し?脅しだよね?どんだけ偉そうなの、カークランド一族!」

「いや、未来に起こるであろう幼馴染の悲劇について語ってるだけだけど?
スコット兄さんのチビちゃんへの執着はもう一歩間違えると危ないから。
あの人なんていうか…愛情が重いっていうか…ドロドロに深いっていうか…」

「ね、その表現超怖いんですけど?!怨念じみてるよね?!
ていうか…あの魔術師集団の長の怨念って怖すぎるんですけど?!」

「うん。だから僕も今回のチビちゃんのお目付け役は丁重に辞退して、フランを推薦しといたんだよ」

「ちょっとぉぉぉ!!!なんてことしてくれんの?!この男はっ!!!」
シラっと言うウィリアムにフランシスは思わず叫んだ。

「まあ…ね、別にずっとくっついてろっていうんじゃなくて、チビちゃん達と連絡取れる範囲にいて、困ってそうだったら物品や情報提供してあげるくらいしてくれればいいから」

「普段は街にいればいいのね?」

「うん、そうだね。間違っても手を出したりしたらダメだよ?フラン節操ないから。
あの子はスコット兄さんにとっては永遠のチビちゃんだからね。
いつまでもいつまでも無垢な子供にしておきたくて、そういう大人な知識の類から遠ざけて一切教えずに育ててるくらいだし、下手に手を出したら呪い殺されるかもよ?」

そしてとどめ
「もしくはお兄さんがお姉さんになったりしてね♪」
「うああぁぁぁ」
にこやかなウィリアムを前に耳をふさいでしゃがみ込むフランシス。

「もう、だからカークランドに関わるの嫌なのよ、お兄さんっ。お前達怖すぎっ!」

北の国でもたまたま東の国境近くに城があって…たまたまカークランド家の近くにいて…ついでに親も魔法の名門に弟子入りでもできたなら…などと思ってしまった事が、全ての間違いだったのだ…。

『カークランドにだけは関わりたくない!』
先日ギルベルトに言った事を心の中でお題目のように唱えながら、フランシスは自分の船でのほほんとティータイムを楽しむ幼馴染のために、焼き菓子を焼きにキッチンへと向かうのだった。



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