慌てて一歩飛びのいて長剣を構えるギルベルト。
光ったドアにはローブの男が映っていた。
アイルと同じ赤い髪。
年の頃は自分と同じかもう少し上だろうか…。
「招かれもせずここまで来た非礼はアーサーを保護していた功績に免じて見逃してやる。帰るがいい」
上から見下すような目線で、ドアの中の男が言った。
強烈な威圧感…。
おそらくこれが当主スコットなのだろう。
「言われないでもお前らがさらったアルトを助けたら、こんなけったくそ悪いとこさっさと離れてやるぜっ!」
アーサーを取り返すまでは絶対に帰らない、という意志をみなぎらせて答えるギルベルトに、スコットは少し眉を寄せた。
「愚か者の相手をするほど我々は暇ではないのだが…一応訂正をしておいてやろう。
アーサーは元々我々の側に属する者だ。
アーサー・カークランド。カークランド本家の4男にして我々の末弟と知っていて言っているのか?」
「…アルトが……お前達の?!」
さすがに驚くギルベルト。
「そうだ。だから助けるとか思っているなら筋違いだ。
今なら見逃してやろう。帰るがいい」
魔術師一家カークランドの本家の人間?
あのアーサーが?
ギルベルトの脳裏に出会ってからのアーサーの様子が次々浮かぶ。
料理をさせれば茹で卵すら爆発させ、散歩にでれば日射病で倒れる。
連れ去られそうになっても怯えるばかりで抵抗もできずに硬直して……
「それがどうしたってんだ!そんなの関係ねえ!!
アルトは怯えて嫌がってたじゃねえかっ!!無理やりさらった事は変わらねえっ!!」
そう、怯えていたのだ。
アーサーは確かに怯えて嫌がっていた。
自分が連れ戻すのに他に何の理由がいるのだろうか。
「アルトを返せっ!あくまで返さねえ気なら、てめえを殺してでも奪い返してやるっ!!」
ギルベルトの言葉はスコットには意外だったらしい。
驚いたようにかすかに眉を動かして、しかしすぐ表情を消した。
「無駄だ。アーサーは帰る事を望んでいない」
「そんなの、お前らがアルトを脅してるだけだろっ!
そうまで言うならアルトと話をさせろっ!!」
諦める様子のないギルベルトにわざとらしくうんざりした表情を浮かべたスコットは
「いいだろう。本人に説得させてやる」
と、軽く手を振った。
そのとたんまたドアが光ってスコットが消える。
そして消えたドアに映し出されたのは…
「お前は馬鹿か?なんでこんな所まで追ってきてるんだ?」
無表情に言い放つアーサー。
「助けにきたに決まってんだろうがっ。ひどい事されてねえか?大丈夫か?」
「助けに?何勘違いしてるんだ?
俺は兄さんが言った通りカークランド家の人間で…ずっとお前をだましてたんだ。
殺す機会を狙ってたんだぞ」
薄暗い部屋の中、淡々とそう言うアーサー。
「ずっとだましてたのか?」
「そうだ」
声には微塵の動揺もない。
あくまで無感動、無表情で…いつものコロコロ変わる表情は見受けられない。
「じゃ、早く連れ帰らねえとな」
「…なっ?!」
笑顔で言うギルベルトのその言葉にそれまでの無表情が崩れて驚きの表情に変わった。
「俺様は大人しく騙されてる人間じゃねえからな。
騙しても全然構わねえけど、そのお仕置きはしねえとなっ」
高らかに宣言するギルベルト。
アーサーの驚きの顔が今度は見る見る間に泣き顔に変わった。
「馬鹿かっ!俺はすごい魔法使いなんだぞ!お前なんかこてんぱんだ!」
「ははっ、そうだな。あのジャガイモ、お前の魔法で美味しくなった言ってたな。
確かにすごいわ。また作ってくれよ」
「何呑気な事言ってんだっ!さっさと帰れ!ばかぁ!!」
ポロポロ泣くアーサーにどうしようもなく愛しさが募って、ギルベルトも泣きたい気分になってくる。
「大丈夫だ。怖かったな。心配ないでもいい。世界最強の俺様がちゃんと助けてやるからな」
「助けられるわけないだろぉ!兄さん達はすげえ強いんだぞ!
殺される前に帰れよっ。ホントに殺されるから…帰れよ…ばかぁ…」
「帰ったら二度とアルトと会えねえじゃん。そんなの死んだってごめんだぜ。
どこかで生きてるなんて思うだけじゃ足りねえよ。
側にいて、いっぱい触れて、いっぱいいっぱい抱きしめて、そんなんじゃないと全然足りねえ。俺様は欲張りなんだぜ?
だから絶対にお前を連れ帰ってやるから。いい子で待ってろよ?
くれぐれも無茶はすんなよ?」
「無茶はお前だっ、ばかぁ!」
「無茶でも馬鹿でもいいから。絶対に迎えに行ってやるからな」
可愛くて可愛くて可愛くて…今すぐ抱きしめて顔中にキスを落としたい。
確かにこんなの家族だけじゃ足りない。
「今すぐ行ってやるからなっ!待ってろよ!」
宣言した瞬間にぷつりとアーサーの映像が消えた。
説得は無駄だと判断されたらしい。
さあ!宣戦布告だっ!!
「フェリちゃん、ルッツ、行くぜ!!」
ギルベルトは長剣を振り上げて、閉まっているドアを蹴破った。
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