“すぐ戻って”の一言だけで呼び戻されるって、どんだけお兄さん暇だと思われてるの?」
ドアベルが鳴らされるので応対に出たギルベルトが連れて部屋に戻るなり、いきなりそう言って入ってきたのは、見事な金髪の男だ。
海のような綺麗な青い瞳に白い肌。綺麗と言っても良い顔立ちだが、あごのあたりに生やした髭が女性的な印象を消して男臭さをかもしだしている。
「あら、それでも戻ってくるってことは暇なんでしょ?」
エリザはそう言うと、目で椅子をすすめた。
「お兄さんは世界のお兄さんだからねっ。
お兄さんに会いたいのであろう可愛いエリザちゃんのために貴重な時間を割いてあげようという優しい考えの元に戻ってあげたんだよっ」
男はそう言いつつ歩を進めると、
「そうは思ったんだけど…ずいぶん可愛いお客様がいるね」
とフェリシアーノに向かって二コリと笑いかけた。
ギルベルトの隣ではルートがわかりやすくむっとしている。
「あ~、あんたフェリちゃんにだけはちょっかいかけないでよ。
ルートの大事な相手なんだから」
エリザが言うと、男は
「あら残念」
とあっさり引き下がった。
「ってわけで…この髭男はフランシス・ボヌフォワ。北東の方で根を張ってる変態貴族よ」
「ちょ、エリザ、その紹介あんまりじゃない?!」
「ま、紹介はそれでいいとして、本題入るわよ」
「ちょっと、無視?お兄さんの言い分無視なの?!エリザひどいっ!」
と、懐から出したハンカチをかみしめるとヨヨっと泣き崩れるフリをする男。
そのテンションの高さに茫然とする3人。
「マジ時間ねえから、話きいてくれ」
そんなふざけたやり取りをしていているのを待ちきれずギルベルトが話し始めると、
「何?お兄さんちょっと嫌な予感しないでもないんだけど…」
と、フランシスの方もころりと態度を変えてきた。
こうしてそれぞれが居間で落ち着いて、本題に入る。
「あんた…東に結構知り合いいたわよね?」
エリザの言葉に
「嫌なあたりは聞かないでくれたら口聞きくらいはしてあげるけど?」
とフランシス。
「悪いわね。たぶんその“嫌なあたり”だと思う」
と苦笑いをするエリザにフランシスはハ~っと大きくため息をついた。
「ま、最悪“カークランド”以外だったらなんとかするよ?」
「あ~…言いにくいんだけどね、その“カークランド”なの」
「無理っ!あそこだけはお兄さん無理だからっ!!」
エリザの言葉にフランシスは思い切り首を横に振る。
「無理でもやってもらわないと困るのよ、頼むわ、ねえ」
手を合わせるエリザだが、フランシスは
「無理っ!!あそこに関わってたら命がいくつあっても足りないっ!!」
と言いきった。
「ほぉ~…」
そのとたん…室内の温度が急に冷え込んだ気がした。
「じゃ、そのいくつもある命のうちの一つをここで落として行ってもらおうかしら…」
エリザの眼がスッと細められる。
「…エリ…ザ?」
「うちの国の未来の国王陛下の命かかってんのよ。
護衛責任者としてはどうにかするしかないし?
わかるわよね?あたしはやる時はやる女よ…?」
いつのまにか手にしたのか、細身の短剣をスっとフランシスの白い喉元に押し付けた。
「冗談…だよね?」
「あたしね、冗談が大嫌いなの」
ニヤリと凶悪な笑みを浮かべるエリザに、フランシスは諦めのため息をついた。
「降参。もうそこまで本気モードのエリザになんて抵抗するだけ無駄だよね。
で?お兄さんに何して欲しいの?」
両手をあげて降参の意を示すフランシスに、エリザは短剣をおさめた。
「まずカークランドについて知ってる限りの事教えて。
で、最終的にそこん家の奴に誘拐されてるお姫さまを救出したいのよ」
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