そして伝書鳩を飛ばして半日後。
再度バイルシュミット家に来たエリザがやや気難しい表情で言う。
それでもルートに事情を聞いたエリザは大きくため息をつき、羊皮紙と羽ペンを引き寄せた。
「エリザ、知ってるのか?」
とのルートの問いに、彼女は何やら書き物をしながら答える。
「あ~、まあなんていうか…東西南北とかそういう枠を超えて有名な魔術師一家よ。
一応東の国に身を置いてはいるけど、国王でも自由にできないって厄介な連中でね。
別名『宿命の守人』って呼ばれてる」
「宿命の守人?」
「ええ、代々何かを守っている一族らしいんだけど、何をかは私も知らないわ。
わかるのは一家全員が魔法王国東の国でもそうはいない魔術師で、本家の当主がここ数年くらいで変わった事くらいね。
まああんた達は運がいいわよ。
ついさっきまでそこの当主の知り合いの北の国の貴族と一緒にいたのよ。たぶんこのあたりを通って帰ってる途中のはずだから、今呼び戻すわ」
書き物はそのための手紙らしい。
書き終えたらしい手紙をエリザは伝書鳩の足に結び付けた。
「頼むわよ、急いでね」
と、エリザは鳩に向かってそう言うと、窓の所まで行って、それを空に放す。
クルルル!と一声鳴いて鳩は空へと羽ばたいていった。
それを見送ると、ギルベルトはクルリと振り返った。
「で?そっちのお日様はともかくとして、お前達はどうするんだ?」
窓枠にもたれかかってギルベルトはルートに視線を送る。
「俺はっ俺は一緒に行くよっ。だってアーサーは大事な友達だしっ」
拳を握りしめてフェリシアーノが言うと、
「剣一つ持ちあげられないフェリシアーノをまさか一人でやるわけにもいかないだろう?兄さん」
と、ギルベルトに答えるルート。
「あ~、やっぱりそうくるよなぁ」
ギルベルトはくしゃくしゃっと頭をかく。
「…止めないのか?」
あっさりそれを認めるギルベルトが少し意外だったらしい。
ルートは片方の眉をあげる。
するとギルベルトはケセセっと例の特徴的な笑い声をあげる。
「俺が止めたらやめんのか?」
「…やめないだろうな」
「だろう?アルトだけならとにかく、フェリちゃん一緒だもんな。それにな…」
「…?」
「俺はお前にちゃんと自分で歩けるだけの事は教えたつもりだ。
お前も与えられたものはきちんと身につけてくれた。
だからもうお前は自分の歩くべき道を自分で決めればいい。
俺はお前がきちんと行くべき道を選べる男に育ってくれてるって信じてっからな。
未来の王様だって大事な相手くらい守りてえもんな」
「…兄さん…」
「…いい兄弟よね」
「うん、そうでしょ」
そんな兄弟のやりとりを少し離れたところで見ているエリザとフェリシアーノ。
「でもね」
とフェリシアーノがギルベルトを見上げた。
「なあに?」
「それでもルートは結局ギルから離れちゃうんだよ?
家族のギルじゃなくて他人の俺を選んでくれる…。
家族だから確かに心はつながってるかもしれないけどさ…でも1番じゃなくなっちゃうんだよ、家族って」
「……そうねぇ…」
エリザ自身は親は忙しかったので、それほど互いに依存もしていなかったし、一番かと言われれば否と即答する程度には親離れ子離れは出来ているつもりなので、フェリシアーノの言っている意味が必ずしもわからないのだが…まあ、可愛い男の子同士が仲良くするのは楽しいので、もっとやれ!と心の中でエールだけ送っておく。
そんな風にそれぞれがそれぞれの物思いにふけっていると、やがて馬の蹄の音が外から聞こえてきた。
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