聖夜の贈り物Verぷえ10章2

「…げ……アル…ト…逃げっ」
人間やればできるんだ~!とフェリシアーノは思わず心の中で拍手した。


ギルベルトは動こうと試みて、一部成功したらしい。
体は相変わらずかすかに震えるのみだが、口はなんとか動かせたようだ。
全身汗びっしょりになりながら、声を絞り出している。

「うわ~すごいね。
ただの人間が一部位限定とはいえ、カークランド家の人間の呪縛解いちゃうんだ」
クススっと緊張したこの場にはそぐわない涼やかな笑い声が響いた。

「てめえ、手ぇ抜いてんじゃねえぞ!」
と、それにかぶせるように荒っぽい感じの声。

一人は前回の襲撃者の白金の髪の男で、もう一人は燃えるような赤毛の…魔術師というよりは戦士のように体格の良い男だ。

「抜いてないよ?てか…文句あるなら自分でやってよ」
「あ~?てめえ、誰に向かって言ってやがる?」
「え~?魔術コントロール能力0の力技攻撃魔法しか使えないNOUKINアイルお兄様?ちょっとはチビちゃん見習いなよ。あ~美味しそうだね、このジャム」
そう言いつつ、白金の方の男はアーサーが混ぜていたジャムをひとすくいして口に入れる。
「デリシャス!チビちゃん料理できるようになったんだね。戦争がないと生きていけないNOUKIN魔術師とは偉い違いだよ」

「あ~!もう一度言ってみろっ!この腐れ弟がぁ!!」
いきなり味方同士で起こる仲間割れ。

いきなり殴りかかろうとする赤毛の男の拳をスルリと回転して避けると、白金の男はいつのまにか手にしていた杖を振る。
とたんにピタリと硬直する赤毛。

「おいっ!ふざけんなっ!魔法解きやがれっ!!!」
赤毛は怒鳴るが、動けない以上どうしようもない。
白金はその様子にクスクス笑うと、軽い足取りで硬直するアーサーの前に立った。

「さて、と。チビちゃんのことはスコット兄さんにね、ばれちゃったんだ。
だからチビちゃんに与えられた選択は二つに一つだよ?
このまま大人しく来てくれればよし。僕が半径1kmほど離れれば術は効力をなくすから他は放置してあげる。一応、チビちゃんを保護してくれてた事に免じてね。
だけど…逃げたらそこのNOUKINの術解いちゃうよ?そうしたらわかるよね?
このあたりは一面炎の渦だ。加減なんてできない男だからね。骨も残らないよ、きっと」

白金の男は二コリと微笑んだ。
人の良さそうな優しげな笑みである。
しかし言っている事は拒否権を与えない脅迫である事は誰の目からみても明らかだ。

アーサーにも当然それはわかっている。
白金の男、ウィリアムは良くも悪くも感情をはさまない。
自分で決断もしない。
ただにこやかに命じられた事を実行するタイプだ。
だから長兄のスコットがやれと言えばやる。

逆に次兄の赤毛の男アイルと違って、やれと言われない事まで感情的になってやることはない。
もしスコットが与えた命令がアーサーの確保なら、それ以上の事はやらないだろう。
たとえそこに西の国の王族が3人揃っていても…だ。

「俺が…行けば……ほんとに?」
戦闘に関係ない事で怪我をして敵国の人間に助けられて1か月以上。
その間なにも成果をあげないどころか連絡も取らず、あまつさえこのままこちらで暮らしてしまおうとしていた状況を長兄スコットがどう思うかと想像したら、いっそのこと死んでしまいたいくらい怖い。
それでも…ギルベルトやフェリシアーノを巻き込む事を考えたらマシだった。

歯の根が合わない震えた声でそう言って見上げるアーサーに、ウィリアムはにっこり微笑む。
「このNOUKINはこのまま運ぶからね。
僕は平和主義者なんだ。命じられた以上の殺戮をしようとは思わないし。
今回はね、スコット兄さんからの命令はチビちゃんの回収だけだから。
もちろん、そのために邪魔になるなら多少の犠牲は仕方ないとは思ってるけどね」

「ダメだっ…!そんな奴の言う事…聞くな………逃げ…ろ!」
呪縛のかかった状態では言葉を発するのも大変なのだろう。
苦しそうにとぎれとぎれに言うギルベルト。

振り返ったら泣いてすがってしまいそうだ…。
アーサーは震える手を握り締め、気力を振り絞ってウィリアムに言った。
「…連れて行ってくれ…」

「良い子だね」
ウィリアムはアーサーの頭をなでると、手にした短い杖を振る。
すると空から絨毯が飛んできた。
「じゃ、約束通り他はこのまま放置してあげるからね。」
ウィリアムは杖をもう一振り、固まったままのアイルとアーサーを絨毯の上に乗せ、自分も乗ると、そのまま開け放した窓から空へと飛び去って行った。



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