これは一度きちんと話さねばならないだろう。
そう思ってギルベルトは口を開いた。
「俺自身が危険なのはかまわねえんだよ。
ガキの頃から戦場出て傭兵とかやってるし、いまさら刀傷の10や20増えても全然平気問題はない。
確かに俺様は天才だから皆に頼りにされてるけど、天才の俺様だって支えくらいは欲しくなる。
でも俺様はみんなの頼りになるギルベルト様だけど、みんなは俺様だけのみんなじゃなく、それぞれに大切なもんを別の場所に持ってるからな。
俺様も子どもの頃は家に弟のルッツが待ってて、ルッツのためにって頑張りもしたけど、あいつはもう俺様の弟である前にこの国の王だ。
俺様だけのものじゃねえどころか、俺様のものである部分なんてほとんどねえ。
俺様の大切なものって言えるもんなんて、今じゃ育ったこの家、ジャガイモ畑くらいなもんで、そう多くはない。それだって手放せ言われたらまあしゃあねえなって諦められる。
でもアルト、お前はやっと俺様が手にした俺様の特別だ。
お前を傷つけるならフェリちゃんやって容赦せんし、昨日みたいな奴に連れてかれたら地の果てまでやて追って追って追いつめて、相手切り刻んで殺してでも取り戻してやる。
お前に本当に優しく想い合う親兄弟とかがいて、温かい家庭があって、俺様といるために帰れないのが辛すぎてって言うなら、仕方ねえ。
自分が寂しくても辛くても、お前が一番幸せになれる場所に返してやるけどそうじゃねえなら、俺は絶対にお前をあきらめたりできねえ」
固まるアーサーを前に、さすがにこんな子供にする告白ではないなと、ギルベルトは内心苦い笑いをこぼす。
でも仕方ない。
フェリシアーノではないが、最善を尽くさないでなくすよりはいい。
「…でも……」
ぽつりとこぼすアーサーの唇にギルベルトは人差し指を押しつけて言い分を遮ると、
「“でも”は無しだ」
と、言葉を続ける。
「俺が…もし本当に敵兵だったら?」
それでもなお言い募るアーサーに
「それ、まだ言うのかぁ?」
とギルベルトは困ったように眉を寄せて笑った。
「まあ、な。万が一そうだったとしても、かれこれ1か月なんも出来てねえあたりで、兵としてはダメなんじゃね?」
からかわれてアーサーはプクゥッっと膨れる。
「まだ作戦中かもしれないじゃないかっ、ばかぁ!」
と言う様子が可愛くて、ギルベルトはついに吹きだした。
「あ~、そうかもなぁ。おまえ可愛すぎて俺様が攻撃されても反撃できないで殺されてまうか」
「じゃあ、もし全部演技で、実は騙してたら?」
「かまわねえよ?ただしおしおきはさせてもらうけどな。」
にやりと黒い笑みを浮かべるギルベルトに後ずさるアーサー。
「そのくらいで俺様から逃げられると思ったら、大間違いだぜ?
今回みたいに死にかけても地獄の底までだって追いかけてやるから、もうあきらめな?」
笑いながら冗談のように言うギルベルトがどこまで本気かはわからないが…もしかしたら一緒にいる事が許されるのかもしれない…と、アーサーは少し気分を浮上させる。
「…エンパナーダに…トマトとモツァレラのサラダ、それにクーヘンと紅茶がつくならあきらめてやってもいい…」
アーサーが赤くなった顔を隠すようにうつむくと、
「お望みのままに…」
と、ギルベルトはそのつむじにチュッと軽くキスを落とした。
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