聖夜の贈り物Verぷえ9章12

ギルベルトは一瞬自分の耳を疑った。血の気がさ~っと引いて行く。

「…なんて…言った?…よく聞き取れなかった…」
聞き間違いだろうと思ってそう言うと、アーサーは再度繰り返した。

「動けるようになったら出て行くから……今まで迷惑かけて悪かった」
耳鳴りがした。
目の前が怒りでクラクラする。

「フェリちゃんになんか吹き込まれたのか?!」
ガタっと椅子を蹴倒して踵を返しかけるギルベルトに、アーサーは驚いて
「違うっ!フェリは関係ない!!」
と、慌ててその腕をつかんで引きとめた。

「関係ないわけないだろっ!今までそんな事一言も言ってなかっただろ?!」
初めてアーサー相手に怒鳴りつけた。

そんなギルベルトに一瞬気押されたものの、アーサーはなんとか言葉を続ける。

「…言った…だろ。聞こえてたかわかんねえけど…。
ジャガイモが実ったら出て行くつもりだったって。…迷惑…かけてごめん…て」
そう言うアーサーの語尾は震えていて、ギルベルトを見上げる大きな淡いグリーンの瞳には涙がこんもりあふれていた。

「なんで出て行くって言うアルトの方が泣くんだよ?」
怒りが急速にしぼんでいって、ギルベルトはガシガシとアーサーの頭を撫で回した。
そういえば…あの時アーサーが何か言っていた気がする。

「泣くくらいだったら、ここにいたらいいだろ」
「やだ…」
「なんで?…てか、やだとか言わねえでくれよ。さすがの俺様でも傷つくわ」
「やなもんは嫌なんだ」
「だから、なんで?」
「なんででも」
「………」

本当に出て行きたいならこんなに悲しそうな目で泣かないだろう。
感情的になっても逆効果だ…そう判断して待ってみる事にした。

もちろん…本当に帰す気はない。
だってどう考えても色々を思い出して優しい親や居心地の良い家が恋しくて帰りたいという雰囲気ではない。

よしんばそんな状況だとしたらギルベルトだってまた1人になるのは死ぬほど寂しくて辛いが、自分のエゴだけのために引き留めようとは思わない。

でもそうじゃないのが明らかな様子でどうしても帰ると言われればもう、はなはだ不本意ではあるが逃げられない場所に拉致監禁も辞さない覚悟だ。

「…だって……」
沈黙に耐えきれなくなったのか、アーサーが口を開いた。

「俺がいたってギルベルトに迷惑かけるだけじゃなくて、危険な目にあわせる…」
は~っと体の力が抜けてギルベルトはその場にしゃがみ込む。


「…だって…ギルベルトは皆に好かれてるし、皆にとって大事だし、城に行けばルートだっているし…」
ヒクッヒクッとしゃくりをあげながら続けるアーサーをちらりと見上げて、ギルベルトは立ちあがった。

「なぁんでわかってねえんだよ…アルト…」
クシャっと自分の前髪をかきあげて、ギルベルトは今度はアーサーの前に行って膝まづく。
そのまま下から顔をのぞきこむと、アーサーは涙で潤んだ目を向けた。


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