聖夜の贈り物Verぷえ7章05

「…おい、エリザ。さっきのなんなんだ?犠牲って誰がだ?」

一応国防を担う将軍家の跡取り娘と揉めていても良いことはない、そう判断して廊下に出たギルベルトは、部屋のすぐ横の廊下で壁を背に座り込んで膝に顔を埋めているエリザをみつけ、自分もその横に座った。


「何故そんな事を聞くのよ?」
「あんな話きいたら気になるだろうがっ」
膝に顔を埋めたままのエリザの後頭部を軽くこづくギルベルト。

「ついでに言いたい事があるなら、聞いてやる。
あいつがどういう決断をしようと、お前がどういう行動を取ろうと、ルッツを育てたのは俺だし知る義務と権利はあるだろうよ」
こづくついでに、綺麗に整えられたエリザの髪をクシャクシャかきまわしてみると、さすがに嫌そうにその手を払いのけられた。


「…100年に一度しか使えないのよ…」
やはり膝に顔を埋めたまま始めるエリザ。

「ああ、聞いたぞ。…で?」
「……とても…大事な力なの…」
「まあ、そうだろうな」
「……ルートの父親が死にかけた時も…使わなかったの」
「……ほぉ?」
「現国王はまだ元気だったし、跡取りの王子もいる。
だから自分がいなくなっても大丈夫だから本当に使わないと困る時に使うようにと、自ら使わず死ぬ事を選んだのよ」
「……」
「今はあたしが近衛隊長やってるわけなんだけど、本当は軍務大臣の長男が将来ルート役をすべく、近衛隊長に付いてたの。
彼はフェリちゃんとも仲良くてね、ある時陛下の身を狙った暗殺者が現れた時に、巻き込まれそうになったフェリちゃんをかばって死にかけたんだけど、…力を使いたがったフェリちゃんを周りは止めたのよ。
まあ当然の判断よね。
前皇太子にすら使わなかったくらい貴重な力をたかだか臣下の一人に使っていいわけじゃない…。
あんたの言うとおりよ。
どれだけ権力を持っていようと、軍務大臣の息子だろうと、彼は一貴族であって王族じゃない。
結果彼は死んで…フェリちゃんはひどく傷ついてしばらく泣き暮らした。
たぶん…今でも心はその時に置いたままなところがあるんじゃないかな。
…なのに今更何故あんな縁もゆかりもない、誰だかもわからぬ子供に使うのよ…」
そこでエリザの言葉は途切れる。

「あ~…だからじゃねえか?」
それまで黙って聞いていたギルベルトはそこで口を開いた。

「どういう意味だ?」
「たぶんその時のことはすげえ悲しくて苦しくて…だから俺に同じ痛みを味あわせたくないって思ってくれたんだろ」

「……あんたにとって、あの子はそこまで大切な子なの?」

エリザがギルベルトと一緒に戦場を回っている時にはそんな子がいるとは聞いていなかったし、ルートも会ったことがなかったようだから、引き取ったのは最近のはずだ。

そう思って聞けばギルベルトはそんなエリザの疑問も全て理解しているらしく
「年月じゃねえんだよ」
と、苦笑した。

「俺様はあれだ、物理的には何でも1人でできちまうから1人で生きられるように見えて、1人じゃ駄目になるタイプみたいでな。
ずっとルッツを守って生きてきたから、さあもう面倒はみないでいいから自由に生きろって言われたら、なんだかな…心が駄目になってた。
根っから誰かを守るために生きてる人間なんだよな。
自分だけになると命が驚くほど軽くなる。
バカみたいに見境なく戦場に出まくって、ギリギリな戦いとかしてて、そんな中でな、怪我して放置されてたアルトを拾ったんだ。
拾った時点ですごく弱ってて、回復してもやっぱり強くはなんなんくて、なのに色々やりたがって、危なっかしくて可愛い」

「…なんかその話聞いてると、子猫みたいよね」
「ああ、まさにそんな感じだな。
さらに言うなら…誰かに狙われてるみたいでな」
「それは守りがいあって楽しそうね。
あんたのもんじゃなきゃあたしが引き取ってもいいくらい」
「あ~、うん、お前も同類だったよな。
ま、アルトはやれねえけど」
「ま、事情はわかったわ。結局あんたが守る際にヘマして今こうなってるってことも…」
「お前なぁ……まあ、そうなんだけどな」
「とにかく泣いても笑っても、青い鳥の加護はもう使えないんだから、次はヘマすんじゃないわよ」

なんだか納得したようでエリザは立ち上がって部屋へ入って行った。

それを見送ったギルベルトは、頭をかきながら自分も立ち上がり、全員が集合しているアーサーの寝室に足を向けた。


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