そう言いつつ、少し気遣わしげにその頬に伸ばしかけたフェリシアーノの手をギルベルトは反射的にパシッと払いのけたが、次の瞬間ハッとして
「わ、わりい。ごめんな。助けてくれてありがとな」
と、謝罪する。
「う、うん。大丈夫だよ。とりあえず命を取り留めることができてよかったよ」
フェリシアーノはそのギルベルトの反応に一瞬驚いたが、すぐ笑みを浮かべて
「これね100年に一回きりの力だから。次はないから気をつけてね」
と応じた。
「100年に一度て?」
そう言えば…フェリシアーノが力を使う時、エリザが随分と止めていたが…。
ギルベルトもさすがにその言葉に驚いて、エリザと共に戻ってきていたルートに目を向けるが、ルートも何も知らないらしい。
ギルベルトと同じく目を丸くして首を横に振る。
その問いにはまだしかめっ面をしたエリザが
「“青い鳥の慈悲”という100年に1度くらいしか使えない、生命力を回復させる能力なのよ」
と、答えた。
「西の国の国教会に伝わる秘伝の技で、ご神体である“青い鳥”と心を通わせた者のみが使えるの。フェリちゃんのお母様は元国教会の神子でフェリちゃんにもその資質は受け継がれてるから」
「ええ??この鳥、神様なのか?」
と、ギルベルトはフェリシアーノの手から再び頭の上に戻ってちょこんと鎮座している青い鳥を見上げる。
「あ~、神様というより精霊って感じかな?」
フェリシアーノはそれに答えて視線だけを青い鳥に向けるように上に送る。
「普段はチョーカーから俺の生気吸い取って力蓄えて、それを奇跡に変える。
と言っても、さっきの技の他だと、せいぜい人を高速移動させるくらいだけどね。
すごく力消費するから、さっきの技でもうほぼすっからかんだし、また貯めないと…。
時期がきても力が足りなくて技が使えないし」
フェリシアーノはそう言ってポケットの中からチョーカーを出すと、カチンと自らの首にはめた。
「はぁ…なんかすげえもんなんだな…」
ほぉ~っと呑気にため息をつくギルベルトに、何かがプチっと切れたらしい。
「何を呑気なこと言ってんのよっ!本当にあんたはこの重要度をわかってないっ!!!」
いきなりエリザが声をはりあげた。
「いいっ!100年に一度、100年に一度きりのために、今までどれだけの人間が犠牲になってきたと思ってんのっ!!」
握ったこぶしがフルフルと震えている。
「ごめん、エリザっ。今回は俺が…っ」
駆け寄ろうとするフェリシアーノの腕をルートがハシっとつかんで止めた。
青い目が燃え上がり、スィっと細められる。
「わかってないのはエリザ、あなただっ!あなたは誰だっ!他の人間は何だっ!
青い鳥の力を使う権利は誰に有する?!あなたなのかっ?!
いいかっ、どれだけ親しくする事を許されていたとしても、忘れるべきではないっ!
フェリも兄さんも王族であなたはその臣下だっ!!
全ての力の施行の権利は王族に有する!!
そして兄さんは次代の国王を長年に渡り守りかばい育て続けた功臣、つまり国の恩人だっ!!」
反論を許さない強い意志を持った青い目が鋭い光をはなってエリザを射抜いた。
普段は年上には腰の低い、あまり権力をひけらかせたりはしないルートだけに、エリザも黙り込む。
だが内心は完全に納得はしていないようで、そのまま無言で部屋から出て行った。
「あ……」
フェリシアーノはまたそちらに手を伸ばしかけ、それからそろそろとその手を胸元に戻してうつむいた。
「エリザさん…怒らせちゃったね、俺…。嫌われちゃったかな。」
と、肩を落とす。
「あ~大丈夫だって。あいつもまだガキだから色々整理がつかねえだけで、別にフェリちゃんがどうのなんて思ってねえよ。むしろ俺のせいで嫌な思いさせてごめんな、フェリちゃん」
と、ギルベルトは気遣わしげに眉尻をさげる。
「あいつも短気なとこあるから、頭冷やしたら戻ってくるだろ。
まあおかげさまでアルトも少し落ち着いたようだし、任せていいか?
俺様はちょっと様子みてくるから」
と、そこで少し笑みを浮かべると、フェリシアーノをうながした。
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