この島からはるか遠くに大陸があるとは聞いたことはあるが、外から人が来たという話もきかなければ自身も島の外にまで遠征はしたことがないので、本当かどうかはギルベルトも知らない。
正直日々の生活と島内の戦いだけで手いっぱいで、外にまで興味を向けた事もなかった。
「…島自体かぁ…。
スケールでかいなぁ、フェリちゃん」
「そんなことないよ。単に探しものがこの島じゃみつからないだけ。あ、でもこのことはまだみんなには秘密だよ?」
フェリシアーノはシ~と言うように人差し指をたてて片眼をつぶってみせた。
「そろそろ城に着いた頃かな…ルート」
フェリシアーノはそれ以上は話すつもりはなかったのか、そこでその話題を切り上げて、開け放した窓の外に目をやった。
ギルベルトもフェリシアーノが国どころか島を出てまで見つけたい物が何なのか興味がないではなかったが、今はそんな好奇心を満たすより、より切実な問題の解決の方が重要だった。
ルートが城を目指してから今までの間に、アーサーはどんどん弱っている。
ちょうど今まで過ごした時間と同じだけの時間持たせる事ができるのか…。
「駄目だ…弱気になったら駄目だ…」
嫌な考えを振り切るように首を横に振るが、目の前に展開する現実は無情だ。
それまで苦しそうではあるが一定の感覚で呼吸を繰り返していたアーサーは急にヒュウッと空気が漏れるような呼吸をしたかと思うと、咳込み始めた。
そして激しく咳き込むと同時に吐き出す息の中に血が混じる。
「いけない、ギルベルト兄ちゃん、逆流しちゃわないように半身おこさせてっ!」
窓辺に佇んでいたフェリシアーノが慌ててタオルを手に戻ってきた。
「アルトっ、しっかりしろっ!すぐだからっ、もうすぐだからなっ、頑張れっ!」
もう枯れ果てたと思っていた涙が、再びギルベルトの視界をゆがませる。
半身を起させて自分に持たれさせたアーサーは、苦しさのための無意識なのか、弱弱しくギルベルトのシャツの裾をつかんだ。
ギルベルトは片手でアーサーの体を支え、もう片方の手でその手を握り締める。
抱きしめた体から、手から、どんどん力がなくなって行くのを感じて、ギルベルトは逆に自分の手に力を込めた。
そうしなければ連れて行かれてしまうような気がした。
シャツを握るアーサーの手から力がどんどん抜けて行く。
もうほとんど指がかろうじてひっかかっている程度で、それも完全に消えてしまうのも時間の問題だ。
とても数時間ももたせるのは不可能なように思われた。
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