聖夜の贈り物Verぷえ7章01

「…痛いか?…ごめんな。…もう…本当に何もしてやれることがねえんだ……。
…だけど…もうちょっと頑張ってくれ。頼むから…。
…元気になったら…そうだな、ピクニックでも行こうぜ。
弁当にはアルトの好きなおかずいっぱい作ってやるから…クーヘンだっていっぱい作ってやる。
それとも町に出て市でも冷やかして歩くか?
…アルトが好きな紅茶用に新しいカップ買ってもいいな…。
何でもしてやる。どこでも連れてってやる。
だから…頑張ってくれ。死ぬな。頼むから…」

涙も枯れ果て血の気を失った顔でそんな風に語りかけながら、ギルベルトは両手で握ったアーサーの手を額に押し付けた。



フェリシアーノと共に止血を終え、瀕死のアーサーを自宅へ連れ帰って半日以上たつ。

アーサーはヒューヒュー苦しげに小さな呼吸を繰り返しながら、時折痛むのか顔をしかめていた。

フェリシアーノが薬草を集めてくれた甲斐あって出血はなんとか止まっているものの、すでに大量の血を失っている事と、恐らく肺などの臓器まで達している傷のため、いつ命が尽きてもおかしくないように思われる。


(ルッツ…頼む…)
と、ギルベルトは今頃城まで馬で疾走してくれているはずの元養い子に心の中で語りかける。
ルートの乗ってきた馬は国王自慢の駿馬なので、恐らくそろそろ城についている頃だろう。
すぐ話がついたとして早くてあと半日。
間に合ってくれ…と、悲壮な気持ちで祈り続ける。

実は間にあったらどうなるのか、どうして助けられるのかなど、ギルベルトは知らない。
それでもそれが唯一の縋ることのできる希望だった。

もしそれがダメなら…

(…一緒にいってやるからな…一人でなんて行かさねえから…)
ギルベルトは心の中でつぶやいて、両手で握った自分より一回り小さな白い手に口づけを落とした。

「少し…息が苦しそう。
万が一血とか吐いちゃった時のために、横向かせてあげた方がいいかも…喉詰まらせちゃうから…」
フェリシアーノが濡れたタオルをしぼって、アーサーの額に浮かぶ汗を拭きながら言う。

「なんかフェリちゃん、怪我や病気に詳しくないか?」
それを受けてアーサーの頭だけをそっと横向かせて、ギルベルトは視線だけをフェリシアーノに向けた。

自分も決して詳しくないとは言わないが、ギルベルトの場合は戦場を渡り歩いて実際に怪我人を多く見たり、自分自身も怪我をして自力で応急処置をしてきた経験によるものだ。

赤ん坊の時に外に逃がされたルートと違い、ずっと城の中で王子様暮らしをしてきたフェリシアーノが薬になる野草にまで詳しいのは、不思議と言えば不思議だ。


「あ~俺ね、エリザさんに教わったの。エリザさんは女の人なのにすごく強くて戦場にもいっぱい出てて、有事の時のためにって医療の事もいっぱい勉強してたし。俺はいつか城を出る身の上だから」
少し苦い笑みを浮かべるフェリシアーノは、城でみる無邪気な様子と違い妙に大人びて見えた。

「へ?城…出されるのか?それとも自分の意志で?」

ギルベルトの質問にフェリシアーノは
「う~ん…」
と唇に指をあてて少し考え込んだが、やがて
「両方…かな?」
とにっこり笑う。

「両方?」
「うん。お城はドロドロしているところがあるからね。
俺みたいに後ろ盾がない王族は平和に生きていくのはなかなか難しいんだ。
それが物理的な理由。
でもって…気持ち的な方はね…やりたい事あるんだ。探したい物がある。
だからね、いつか西の国って単位じゃなくてこの島自体を出ようと思ってるから、そのためにね、こっそりエリザさんから医術学んでたの。
何もできないんじゃ生きていけないでしょう?」

なるほど、フェリシアーノはおっとりとしているようでいて、すでに自分の将来に向けての準備をしているらしい。


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