ただゆるやかに命がうしなわれていく感覚だけがリアルに感じられた。
綺麗な綺麗な大切な花が散って行く。
止めようにも花びらは散る事をやめず、手のすきまからおちていく。
「駄目だ…駄目だ、死ぬなっ!駄目だぁあぁ~~っ!!!!!」
悲鳴をあげたのは喉だったのか心だったのか…
「…めん……」
(…かみさま…かみさま…おねがいだ…)
「…じゃが…い…も……実っ…ら……」
「やめろっ!すぐ手当てしてやるから、しゃべるんじゃねえっ!!」
ひゅーひゅーと細い息の下で紡がれる言葉はもう小さすぎて、半分も聞き取れなかった。
(かみさまどうか…お願いだ!…返すからっ…もらったもん何もかも全部返すからっ…
…身分も家も畑も…手も足も体も目も鼻も口も…なんなら俺様の命だって全部返してもいいから…他には何も要らねえから助けてやってくれ!!アルトだけは助けてやってくれっ!!)
こんなに必死に神に祈ったのはどのくらいぶりだろうか。
「死ぬな…、頼むから、死なないでくれ…」
服を剣で切り裂いて必死に止血をするものの、傷が多すぎて血が止まりきらない。
子供のようにしゃくりをあげながらそれでも止血を続けるギルベルトの手はあっと言う間に赤い血に染まった。
「だめだ…止まんねえ…」
止血する布がどんどん赤くにじんでいくのをギルベルトはなすすべもなく見守る事しかできなかった。
「……おおぜい殺してきたからか…こんな汚れた手を合わせたってかみさまは聞いてくれないのか…」
赤く染まった自分の手は、そのまま血に汚れた自分の人生を思わせる。
ギルベルトはうつろな目を目の前のアーサーに向けた。
「でも汚れてるのは俺様だけで、アルトは汚れてねえのに…こんなに綺麗なのに……」
こんなに綺麗で無垢な存在を犠牲にしてまで汚れきった自分が生きる価値なんてどこにあるのだろう…と、ギルベルトは思う。
それともこれはたくさんの人間を殺してきた自分への天罰なのだろうか…
それなら自分に直接向けてくれたらいいのに…と、思った。
「かみさま…もう勘弁してくれ…。耐えきれねえよ、ほんと…。こんなん耐えられねえ…」
ギルベルトはうつむいてポロポロ涙をこぼした。
「いっそのこと俺様も殺してくれ…頼むから…今すぐ殺してくれ…」
ギルベルトが泣きながら血を吐くような思いでそうつぶやいた時、上からバサバサっと何かが降ってきた。
「諦めちゃだめだ、大切なものは絶対に諦めちゃだめなんだよ、ギルベルト兄ちゃん」
いつのまにか薬草を集めてきていたらしいフェリシアーノは、ギルベルトの隣に座って土で汚れた手を濡れタオルでぬぐうと、目の前に並べた大量の薬草をもみつぶし始めた。
「2日…ううん、ルートが頑張って急いで城についてくれたら1日持たせれば助けられるからっ。頑張ろう、ギルベルト兄ちゃん」
言いながら慣れた手つきでフェリシアーノは止血した布の下につぶした薬草を塗りこんでいく。
「俺はね、諦めちゃったんだ。それを今も後悔してるから。もう絶対に諦めて後悔しないって決めたんだ」
そういうフェリシアーノの表情はいつものほわほわとした頼りなさがなりをひそめ、なにか強い決意のようなものをうかがわせていた。
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