魔術師自体は東の国との戦闘で何度かみかけたことはあるが、常に護衛に囲まれて後方にいたため、直接対峙したことはない。
ゆえに詳しくはないのだが、どうやら今まで見てきた魔術師とは少し様子が違うようだ。
戦場で見た魔術師が持っていたような長い杖はたずさえてない。
代わりにメイスの先に宝玉をつけたような短い杖を持っている。
どう違うのだろうか…
「まあ知らねえもん考えてもしゃあねえな…どっちにしろ殺るしかないだろうしな」
ギルベルトは間合いを詰めようと敵に向かって走り出した。
魔法は確かに強力だ。
単純に殺傷力で競うなら、普通の攻撃など比べ物にならない。
ただ、その分、軽々しく使えない。
呪文詠唱に時間がかかるはずだ。
こちらの武器はいつもより数段小さく頼りないが、魔術師相手なら詠唱前に倒してしまえばなんとかなるだろう。
そんな目算のもと迷わず一気に間合いを詰めに走ったギルベルトだが、あと数mでなんとか武器が届く間合いに入ろうとしたところで、自分の考えがあまりに甘かった事を思い知った。
なんとあと数秒は完成しないであろうと思っていた呪文が、ありえない速さで完成していたのである。
しかも自分の方はと言うと、相手の魔法の間合いに入ってしまっていて、複数本飛んでくる魔法の矢を避けるのは不可能だ。
瞬時に悟ったギルベルトはとりあえず完全に避けられないまでも、致命傷になりそうな場所だけかばおうと、体制を整えるためいったん足を止めて矢が飛んでくるのを待った。
呪文完成と共に敵がさらに後方へと退却しているのが目の端にうつったが、追うどころではない。
すぐに来る衝撃に耐えるため、手で体をかばうようにして目をギュッとつむる。
………
やがてギルベルトに触れた感触は、矢のような鋭利なものではなかった。
(………?)
自らの体を抱えた腕に何かが当たる。
目をあけた瞬間…時間が止まった。
何が起こっているのか、頭が考える事を完全に拒絶する。
「……なん…で?」
体中の血が凍りつく。
そして次の瞬間…心が壊れる音がした…
かすれた声で問うギルベルトに、目の前のアーサーはふわりとそれは綺麗にほほ笑んだ。
この世の純粋で無垢なもの、柔らかいもの、綺麗なものを全て集めたような微笑み。
しかしその綺麗な金色と白で構成されているアーサーは、初めて見つけた時のように血で赤く身を染めている。
血が流れるのと呼応するように、するりとギルベルトをかすめるように崩れ落ちて行くその体を、ギルベルトは慌てて支えた。
痛い…つらい…苦しい…息が…できない…
およそありとあらゆる苦痛という苦痛が実際には怪我ひとつしていないはずのギルベルトの体中をむしばんでいった。
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