いつもにもまして強い陽射しが射しこむ昼下がり。
いつものように散歩に行くアーサーを見送って、ギルベルトもいつもの看護セットを手にドアへ急ぐ。
そしていつものようにソッとあとをつけようと思ってドアをあけた矢先、彼の前には思いがけない顔が…。
「ルッツにフェリちゃんじゃねえか。何してんだ?」
とっさにアーサーがもう見つからないくらいに遠ざかっている事をちらりと確認すると、ギルベルトはなるべくいつもの通りに見えるように笑顔を向けた。
「よく来たな。急だからびっくりしたけど、ま、いいか。あがってけよ」
と、なるべく自然な態度をと中に促そうとするギルベルトの言葉に、ルートは不機嫌な顔をする。
「ごまかさないでくれ。東の国の子どもを引き取ったって聞いたんだが?
家族の俺にも言わないとは、信用されてないのだろうか…」
ああ…ばれてたのか…
と内心焦るものの、ルートの口調からすると、何がなんでも反対というわけでもなさそうだ。
それならむしろここで変に隠そうとするよりは、味方につけて何かあった時に協力してもらった方がいい…。
そう一瞬の間に判断したギルベルトは、ルートに事情を話す事にした。
アーサーを拾った状況や記憶をなくしている事、保護する必要性などを話して説得をすると、あくまで“ギルベルトはそういうやつ”というルートは認識をしているらしく、なるほど…と頷いて考え込んでいる。
むしろルートよりもその横を歩くフェリシアーノが終始無言で何か考え込んでいる様子なのが気になるが、ギルベルトはとりあえずルートを完全に抱き込むのに集中する事にする。
その甲斐あってか、ルートも納得してくれたようだ。
そして無言が気になっていたフェリシアーノも笑顔になっている。
単にギルベルトを心配して悩むルートを心配していただけだったのかもしれない。
この正妻の血筋の王位継承権第一位の王子であるルートと王宮生活が長く人脈もあるフェリシアーノを味方につける事ができれば、多少の事なら融通を利かせてもらえるだろう。
ギルベルトとて何もそれほど大それた事を望んでいるわけではない。
ただアーサーと静かに暮らせればそれでいいのだ。
放棄しろと言われればもちろん王位継承権など喜んで放棄するし、最低限の生活を確保するためこの邸宅と畑を残してもらえるなら、他の財産は手放しても構わない。
アーサーを拾ってからは畑仕事以外は戦場にも出ずまったりは過ごしてはいるが、この敷地内の畑の収穫やたまに手伝う村の仕事で得られる物品で二人のささやかな生活は十分まかなえる。
それさえも手放せ、出て行けと言われるなら、それも良い。
アーサーと二人、テントの一つでも持って旅に出るのも楽しそうだ。
伊達に貧乏な家庭で育ってはいないのだ。
魚や肉になる獣の取り方、食べられる野草までばっちりだ。
たまには傭兵でもやって金を稼いで、アーサーに美味い物でも食べさせてやるのもいい。
ああ…そんな生活も楽しいかもしれねえな。
と、とりあえず味方もできたらしい事で、思考はそんな楽天的な方向へと向かっていたが、その楽しい想像は、お気に入りの散歩コースの方から聞こえるアーサーの叫び声で飛び去った。
冷やりと肝が冷えたのか、か~っと頭に血がのぼったのかわからない。
わかるのは心臓がやぶれそうなくらい脈打ち、体の震えが止まらない事くらいだ。
敷地内だと言う事もあって武器を持ってこなかったのを後悔したが、取りに戻る時間はない。
はやる気持ちを抑えつけて素早く辺りをみまわしたギルベルトの目にフェリシアーノの護身用の剣が止まった。
あくまで護身用だけあって、普段は大きめの剣を振り回しているギルベルトにはひどく頼りなく感じたが、ルートの同じく護身用の短剣よりはマシだろう。
「フェリちゃん、これ貸してくれっ!!!」
と、フェリシアーノの腰の鞘から剣を引き抜くと、ギルベルトは返事も聞かず駆け出した。
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