聖夜の贈り物Verぷえ6章04

二人が追いついた時には、すでにギルベルトが敵に一太刀浴びせたあとらしかった。
ギルベルトから数メートル離れた先に、手から血を流した侵入者らしき男がいる。


ギルベルトが侵入者から隠すように後ろにかばっている少年は、なるほどじいやの息子が言っていたように自分よりは線が細く、年下に見える。
というかどう見ても年下だ。10代半ばいくかいかないかだろう。

色素が薄いというのは祖母である北の国の王女やその従者の子孫である祖父の血が入っているギルバートやルートヴィヒもそうなのだが、その髪は銀やプラチナに近い淡い色合いで、少年のように本当の黄金色というのをルートは初めて見た。
素直に綺麗だと思った。

その他特徴といえば、人形のように可愛らしい顔立ちの割にまゆげが不似合いに太いが、整えてない分、かえって幼い子供のような印象を与える。

侵入者がよほど恐ろしかったのか、怯えと驚きの入り混じった明るいペリドットの瞳は大きく丸く、その周りを縁取るまつ毛は驚くほど長かった。
ありていに言えば…庇護欲をそそる小動物のような容姿だ。

子供の頃からギルベルトに弟として育てられたルートですらそう思う。


「後方のルートの方へ逃げておけっ!!」
というギルベルトの声も聞こえてるのか聞こえてないのか茫然とたたずむその様子に、思わず
「さっさとこっちこいっ!」
と、腕をつかんで引き寄せると、軽い体はたたらを踏みながらも簡単に引き寄せられた。

こうしてとりあえず少年を自分の後ろへかばうようにして用心のため短剣を構えたルートは、一応、と、隣のフェリシアーノの様子も伺う。

そんな一連のルート達の行動には一切気を向けず、フェリシアーノは一心に侵入者に注意を向けているようだった。
そこでルートも彼の視線の先を追う。


侵入者は若い男だった。
多数の魔術の増強用の宝玉を身につけているところを見ると、東の国の者だろう。

狙いはやはりこの少年なのだろうが、今はその標的は少年をかばったギルベルトにむけられている。

戦場にも出た事のなければ戦闘をみたこともないルートには、魔術師らしい相手と剣を持ったギルベルトのどちらが今優勢なのかもわからない。

その侵入者が持っているのは、魔術師の武器としてよく連想されるような長い杖ではなくて、メイスのような短い杖。

男がなにやら呪文を唱え、その杖の先から何かが剣が届くまで間合いをつめようと駆け寄るギルベルトに向かった瞬間、初めて圧倒的にギルベルトが不利な事に気付いた。
等間隔で横に広がる透明な矢のような物を避けるのは、あの間合いでは無理だ。

あの矢が果たしてどのくらいの効果があるのか、あれを受けたギルベルトがどうなるかはわからないが、こうなってしまうと実戦経験のない自分に出来る事は一つ…ギルベルトが守ろうとしている者を守りつつ逃げ切る事だ。

「おい、逃げるぞ!」
と、小声で声をかけつつ、後ろの少年の腕をつかもうとしたルートの手は、スカっと空を切った。

(……え?)
思わず後ろを振り向くが、確かにさきほどまでそこにいた少年の姿は影も形もない。

一体どこに?と思う間もなく、その疑問は前方で聞こえたギルベルトの悲痛な叫びで明らかになった。

ルートから5mは前方でギルベルトに抱きつくようにして支えられている少年の背には数本の矢。
それは一瞬で消えうせたが、矢がささっていた部分からは血が噴き出して地面を赤く染めていた。

何故?

自分のすぐ後ろから5m以上も先に行った少年に全く気付かなかった自分が信じられない…。
俺が気付いてたら…いや、ちゃんとあいつの腕をつかんでいたら……
いったい自分は何をやってたのだ…。

ギルベルトは自分を信頼して大切なモノを任せてくれたのに…。
どうしよう…俺の責任だ…

ルートは生まれて初めて言い訳どころか声もでないほどひどく自分の失態を悔んで、その場に立ちつくした。


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