聖夜の贈り物Verぷえ6章03

「あ~…ばれちまったかぁ…」

フェリシアーノと共に訪ねて行くと、ちょうど邸宅から出ようとしてたギルベルトとはち合わせた。
そして金髪の子供の事を問い詰めたら、ギルベルトはのんきに頭をかきつつ、あっさり認めた。


そして
「ま、ばれちまったらしかたねえな。とりあえず話すから入れよ」
ドアの所で少し体をずらして、中へとうながした。


「え?でもギルベルト兄ちゃんどこかへでかけるとこだったんじゃないの?俺達待ってるからいいよ?用事すませてきて?」
と、フェリシアーノが言うのに、ちょっと考え込んで
「ま、いいわ。まだ平気だろ」
とつぶやく。

「まだ平気って何がだ?」
なにやら不穏な発言に、今度はルートが反応すると、ギルベルトは困ったような笑みを浮かべた。

「あいつな、体強くねえんだよ。
散歩行ったのはいいんだけどな、あんま長時間になると倒れてる事があるから。
普段は倒れても回収できるようにこっそりあとつけてるんだけどな」

「それ…全然平気じゃねえだろう?いいから歩きながら話してくれ」
そんな相手じゃなるほど庇護欲の強いギルベルトが放っておけなくて連れ帰るわけだ。


行く道々聞いたギルベルトの話によると、一緒に暮らす事にした少年は、シャツとズボンの軽装で戦場の崩れた建物の下敷きになって倒れていて、連れ帰ったのは良いが頭でも打ったらしく記憶がなくなっていて身元もわからない、そういう事らしい。

「その話…信用できるのか?」
とりあえずそれだけでは騙されてる可能性も否めないと、ルートが疑いの声をあげると、

「さすがルートはちゃんと用心深く育ったなぁ…。
やっぱり幼い頃から俺様がしつけたからだな。
アルトにもそのくらいの用心があるといいんだけどなぁ…」
とギルベルトは苦笑した。

「だからっ、それも演技かもしんないだろう!
記憶なくしたフリして実は刺客で命狙ってるとか…」

そう言ったら、てっきり『あいつはそんな子じゃねえよ』とか、そういう類の言葉が返ってくるかとルートは思っていたが、伊達に戦場を渡り歩いていたわけではないらしい。
そんな相手に対しても意外に冷静な判断に基づいた答えが返ってきた。

「手がな、違うんだよ」
と、自分の手を目の前にかざす。

「柔らかくて、剣とか握った事ない手なんだ。
それどころか畑仕事も水仕事も、いわゆる仕事って言われるような事なんにもしてこなかった手だな、あれは。
拾った時に着てるもんが上等だったってのを別にしても、いいとこのボンやってのは間違いないわ」

「なるほど…手か…」
ルートも釣られて自分の手をマジマジと見る。

「そんないいとこの子がなんで一人で戦場なんてきたんだろって考えて見たら…理由なんて誘拐されたか、お家騒動とかでわざわざ危ない場所に放置されたかしかないだろ。
発見した時、思い切り頭打って血ぃ流してたからな。
たぶんそのせいで本人がなにも覚えてねえ状態だから、関係者に見つかったら危ないだろ。
だからな、思い出すまではなるべく他人に会わさねえようにして、記憶戻るのまってやりたかったんだよ」

筋は通っている気はする。
ギルベルトの得にはならない事には変わりはないが、本人がそれで良いならこれは放置してやっても問題ないのか…

ルートが少し無言で考え込んでいると、ギルベルトは
「それにな…」
と続けた。

「なんか一気に暇になっちまったからなぁ。
戦場も楽しいけど、面倒見てんのが楽しいんだよ、アルトの。
世の中の事なにも知らねえ、小さな子供みたいなとこあってな。
放っておけねえっていうか…守ってやらなきゃなって気になるってのもあるけどな」

そう言うギルベルトの顔があまりに楽しそうで…

(あ~、もう何か起こるまで放っておくか、これは)
なんだか毒気を抜かれてルートは、そう思った。


「まあ…一度会えばお前もわかるわ。
でも会って納得したら騒がねえで放っておいてやってくれ。
怪我治ったばかりで体調もようないし、記憶なくて色々初めてだらけやし、精神的にも疲れちまうからな。」

ルートといた頃は必要以上の手間暇をかけて育ててくれたもののわりあいと厳しい人だと思っていたが、今回は事情が事情なせいもあるのか、ずいぶん大事に大事にしているらしい。

その後、少年のお気に入りの場所だと言うジャガイモ畑の一角に行くまで、紅茶と刺繍が趣味だとか、散歩中によく植物に話しかけてる様子が可愛くてだとか、それはそれは、まるで愛娘にについてでも語るように語られて、正直ルートも返答に困った。

そんなルートを横でフェリシアーノがクスクス笑う。
彼は彼でルートの事を随分心配してくれていたのだ。
ここにきてほぼ口をはさまず黙ってルート達のやりとりを聞いていたが、とりあえず片がついたらしい事を察してほっとしたのだろう。

しかしそんな和やかな空気は、前方から聞こえてきた叫び声で一瞬にして破れさった。

「フェリちゃん、これ貸してくれっ!!!」
敷地内とあって武器を持たずに来たらしいギルベルトは、フェリシアーノの腰から護身用に携帯していた剣を抜き取ると、ものすごい勢いで走りだした。

ルートは一瞬迷って横にいるフェリシアーノを振り返ったが、同じく自分を振り返ったフェリシアーノが行こうと言うようにうなづいたので、腰に刺しておいた護身用の短剣を念の為手にすると、ギルベルトのあとを追う。


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