聖夜の贈り物Verぷえ5章03


「あとどのくらい時間があるかな…」
いつものジャガイモ畑でアーサーは今日も魔法をかける。


まだ有用な情報を得られていないからと思っていたら、ずいぶんと時間が経ってしまった。

いや、嘘だ。
長く時間をかけたところで、どうみても私生活では裏も策略もないギルベルトから有用な情報を得られるわけないということは、本当は分かっている。

ギルベルトはとても頭が良くて、どうやらひとたび戦場に出れば有能な指揮官らしいが、その有能過ぎる策略が発揮されるのは戦場でのことに限られるし、身分にも地位にもあまり執着しないらしく、戦場を離れてまで色々裏で画策するタイプでもないというのは、これまでで嫌というほどわかっている。

そう、情報の有無なんて言い訳だ。
自分は単に今の暮らしを手放したくないだけだ。
アーサーはその場にしゃがみこんで、両腕に顔を埋めた。

初めて経験した暖かい生活だった。
当たり前に差し出される優しい手、注がれる優しいまなざし。

それはまさに大人が親や兄が下の子にむけるような保護者の視線、アーサーがずっと与えられず羨望し続けたそれそのものだ。

だからこそ。そんな大事な思い出が壊れることなく綺麗なまま抱えて生きていけるよう、そろそろ決断しなければならない。


期限はこのジャガイモが収穫できるまで。
そう決めたのは数日前。

短い気もしたが、あまり長いと何かのきっかけで正体がばれる可能性がある。
それだけは避けたかった。


そんな決意をしたためか、ここ数日はあまり眠れていない。

このままここで眠って目が覚めたら、自分から根が生えてジャガイモに生まれ変わってたらいいのに…とか、アーサーはそんなわけのわからない事を考えてぽつりと一粒涙をこぼした。



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