聖夜の贈り物Verぷえ5章02

「あのな、あの人はな、また子どもをひきとったらしい」

まあ言い方と言うタイミングに悩んでいただけで、元々最終的にはフェリシアーノには隠すつもりはなかった。

なにせ去年まではギルベルトとその身の回りの世話をしていたじいやくらいしか、親しく接する相手がいなかったルートだ。

じいやはルートが城に戻る前に亡くなっているし、残るギルベルトに関しての問題となったら、もう、目の前の従兄弟くらいしか話せる相手がいないのだ。

血のつながりという意味で言うなら国王である祖父もそうだが、なにせ腐っても国王だ。
おおごとになりすぎる。
その点、去年からしばしばルートの招きで城に来ていたギルベルトと持ち前の人懐っこさでそれなりに仲良くなっていたフェリシアーノは相談者としては適任だ。


「子供?ちっちゃい子?」
「ん~見た感じは俺よりは下という感じらしい」
「見た感じ?ギルベルト兄ちゃんは教えてくれないの?それとも本人も知らないの?」

ルートの言葉にフェリシアーノは小首をかしげる。
そのフェリシアーノの問いにルートは少し眉間にシワを寄せた。

「兄さんから聞いた話じゃないからな。近所の知り合いに聞いた」


そう、その話を持ってきたのは亡くなったじいやの息子だ。
ギルベルトの家の側に住む彼は、ギルベルトが不在の時は彼の畑の世話を任されている。

しかしちょうどひと月ほど前、彼はギルベルトが久々に故郷の邸宅に帰った時に、ちょっと事情があるから邸内に近づかないようにと言い渡されていた。

そんな風にギルベルトが他人を…特に亡くなったじいやとルートを除くと一番くらいには信頼している彼を遠ざける事は今までになかったが、ギルベルトの事だから何か本当に大変な事情があるのだろうと、彼は言いつけどおりギルベルトの邸宅には足を向けないようにしていた。

が、その日はたまたま良い苗が入ったのでぜひ植えてみて欲しくて、一ヶ月ぶりにギルベルトの邸宅に足を運ぶ事にした。
玄関先で苗だけ渡してすぐ辞すれば迷惑にはならないと思ったのだ。

ということで、彼が一カ月ぶりにかつて知ったるジャガイモ畑を通りぬけると、かつて知ったる邸宅が見えてきた。

それは今はもう王位継承権第3位となった王族の住まいにしてはありえないほどささやかな建物で、しかし地位を得ても立派な城をいくつ持っても、ギルベルトが“自宅”として戻ってくる場所はそこなのだ。

相変わらずつつましい館に住み畑仕事をするといったつつましやかな生活を続けるのは、本当にギルベルトらしいと、彼は微笑ましく思った。


そんな風に偉くなってもなお変わらなかったギルベルトの事だ。
きっと少し困った顔で
「近づかねえで欲しいって言っただろ」
と言いつつ、次の瞬間
「でも、ダンケ。嬉しいぜ」
と立派な苗に顔をほころばせて受け取ってくれるだろう。

別にそれ以上何もなくても構わないのだ。
あの王子を育てたのが自分の父だと言うのが自分の誇りだし、彼が少しでも喜んでくれればそれで嬉しい。

そう思って進みかけた男は、邸宅に向かって全力疾走するギルベルトの姿を遠目にみかけて、足をとめた。
声をかけようとする間もなく、ギルベルトはすごい勢いで家にかけこんでいく。

そのいかにも急いでいるような様子に、今日は忙しいのだろうか?出直した方がいいのだろうか?と男が逡巡していると、しばらくしてまた人影。

しかも当たり前に邸宅にはいっていく。
その慣れた態度は客人と言った感じではない。
遠目だが10代前半くらいの子供のようだ。

それはいい。
問題は……

「目が淡いグリーンだったそうだ。その子どもが」
言ってルートは大きく息を吐き出した。

「それってやっぱり…」

「ああ、この国にはほぼない目の色だしな。
兄さんの当時の行動範囲からすれば間違いなく東の人間だろう。
なので、これはもしかして兄さんの立場的にまずいのではないかという事で、俺のとこにコッソリ話をもってきたというわけだ。

その男は他言するような者ではないし広まりはしないだろうからそちらはいいんだが、兄さんは戦場では懸命で有能だが、私生活になると変なところでおひとよしなところがあるから、騙されてるのではないかと思ってな。
かといって…そう言ってもあの人はいったん懐に入れてしまった相手には甘いところがあるから、子どもをかばいそうな気もして」


「東の…子供ねぇ…」
イライラとするルートの横で、フェリシアーノは少しうつむき加減にそう言うと、思慮深げに考え込んだ。
そしてやがて何か思いついたように顔をあげる。

「ねえ、ルート」
「なんだ?」
「ここで色々言っててもしかたないよ。会いに行ってみようよ」
フェリシアーノはにこりと立ちあがるとそう言って、ルートに反論する間も与えずに、
「こっそり抜け出す手順整えてくるね、待ってて♪」
と、片眼をつぶってみせる。そして止める間もなく部屋から駆け出して行った。



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