西の国らしからぬ涼しげな風が吹き込む王宮の一室。
と、内心ため息をつきながら、ルートは城に戻ったあとの自分の世話役の柔らかく人懐っこい印象を与える性格の従兄弟フェリシアーノに視線を向けた。
彼はギルベルト同様、祖父の側室の腹の娘の子で王位継承権は限りなく低く両親も亡くなっているが、ギルベルトと違って生活力が皆無なため、城に引き取られている。
そしてルートが戻るまではルートの代理だった正妻の娘の腹の従兄弟、ローデリヒの身の回りの手伝いのようなことをさせられていて、今はそれがルートの身の回りにシフトした。
常にルートヴィヒのムキムキな腕にぶら下がるようにしてくっついてひたすらに美味しい食事や綺麗な花、その他諸々楽しげに話し続ける彼が、二人きりで部屋でお茶をしようと自分を誘ってきたのは、珍しいことではない。
だが、来るなり静かに考え込んでいるように口数がすくないのは珍しい。
何か重要な話があるのかと思えばやはりそうだった。
呑気であっけらかんとして見えるフェリシアーノだが、早くに両親を亡くして後ろ盾もないまま宮中に引き取られて実は苦労して育っているので、大事なことに関しては非常に慎重なところがある。
このところ少し1人で悩んでいるような自分をみて、“現在城で自分を悩ませるような事象は起きてない=育ての親のギルベルトに何かあったのだろう=普通に何かトラブルがあったのかと聞いても1人で悩むくらいだから言ってはくれないかも知れないからさりげなく話題をふってみよう”……なんて三段論法が成り立つくらい見抜かれているらしい。
ずいぶんと細やかに気を使われているなと思うが、ルート的には”城の人間”に言って良いのかどうか少々悩む問題ではある。
だから気付かれている事には気付いているがあえてスルーしてみることにした。
「さあな。相変わらず鍛錬は欠かさず体は鍛えているようだが、最近は畑仕事を優先で戦地から自宅に戻っているようだな」
「あ~…え~とね…」
フェリシアーノのいつでも笑っているような表情の顔が笑顔の形をとったまま、固まった。
城に来てから他人に馴染みにくいルートにずいぶんと尽くしてくれたフェリシアーノに対して申し訳ないと思う気持ちはあるが、それ以上にルートは決して余裕があるわけでもない家庭でいきなり押し付けられた自分を育ててくれたギルベルトに恩と情がある。
だから話を反らせてみたのだが、しかしフェリシアーノはそらされてくれる気はないようだ。
「ルートっ!俺ねっ、ルートの事大好きだからっ!」
「うぉ?!!」
いきなりガバっと抱きついてくるフェリシアーノの勢いに、危うく手に持ったカップからコーヒーがこぼれかける。
「ちょっ、離せっ!この愚か者がっ!!」
色々な意味で慌てるルートだが、フェリシアーノは離れない。
むしろ
「俺、ルートの事大好きだから、何か悩んでるの見てるの悲しいよっ」
と、ギュッと抱きしめる腕に力を込める。
「ちょっと待て!!本当に離せっ!苦しいっ!!!」
「やだっ!」
「ふざけるなっ!殴るぞっ!!」
「…それで兄ちゃんが何を悩んでるのか話してくれるなら…いいよ、俺…」
と、そこで急に抱きしめる腕の力を抜いて、少し体を離すフェリシアーノ。
それまでは座っているルートに上から抱きついていたのだが、そこでストンと膝を床に落とし、両手を胸の前で組むと、今度は下からうるるんとした瞳で見上げてきた。
こいつ…女だったら最強だな…。
いや、女顔だし男でも惑わされるやつは惑わされるな……
子どもの頃から己の身一つで知る人の1人もいない宮中で生きてきたフェリシアーノに、裕福ではないとは言え、兄代わりの従兄弟からの精一杯の庇護を受けて育ってきたルートが勝てるわけがない。
うまい…うますぎる…と、呆れつつも感心する。
そしてルートが思わず諦めのため息をつくと、
「話してあげたくなった?」
と、天使の笑みを浮かべて、フェリシアーノはそのまま顔を近づけ、視線を合わせてきた。
お手上げだ。
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