アーサーは確かにとても不思議な拾い方をして、しかもあまりに自分が望んだような性格でいちいち望んでいたような反応を返してくるので、一人になった自分へのサンタクロースの贈り物という考えがよぎる事もあるのだが、ギルベルトとて早々そんなおとぎ話を絶対的に信じているわけではない。
アーサーは普通の庶民の子供ではない。
それは拾った時身に着けていた衣服や世間知らずっぷりもさることながら、何よりその物腰に見てとれる。
庶民と宮廷両方を行き来して、両方の人間に接してきた自分の感覚は確かだとギルベルトは思う。
そんな良い家の子息が何故一人であんな戦場で倒れていたのか…。
一人であんなところへくる事はあるまい。
とすると…誰かに連れてこられたということになる。
お家騒動かなにかで捨てられたか、もしくはそれこそ誘拐されて逃げてきたか…。
前者なら別に良い。
実家にとって要らない、消えてくれということなら、ありがたくもらっておく。大歓迎だ。
しかし後者だったなら……下手をすると見つかってもう一度拉致される可能性がある。
(冗談じゃねえ…)
ギルベルトはギリっと歯をならした。
王国の守護神の二つ名を持つギルベルト・バイルシュミットの名にかけて、一度保護した相手を、悪漢の手に渡すなどという事は絶対にできない。
実際起こったわけでもなく想像しただけなのにフツリと腹の底からわいてくる怒り。
それは体中を駆け巡って、抑えがたいほどの破壊衝動を引き起こす。
大事な非保護者を守りたいと強く思うのと比例して、それに近づく者全てを排除したい、破壊したいと言う暗く熱いドロドロした溶岩のような感情があふれてやまない。
「ああ…落ち着けよ、俺様…」
こみ上げてくる怒気を逃がすように、ギルベルトは大きく息を吐き出した。
「こんなん見せたら怖がらせちまうしな…」
と視線を向けた先では、ちょうどアーサーがジャガイモの葉にソッと唇を寄せている。
「ほんと…こうしてると天使みたいだよなぁ…」
とたんに怒気は霧散し、ほんわり温かい感情があふれてきた。
アーサーの周りだけ空気が綺麗に輝いて見える。
それは実際はアーサーが魔法でジャガイモのために自然の理を少しばかりいじったせいなのだが、ギルベルトはそんな事を知る由もない。
そこにあるのはただただ白くて綺麗で優しい空間。
ギルベルトが今最優先で守るべき空間だ。
「突かれたら嫌な大切なもんなんて…決まってんだろうが。
何かを守るべき騎士として生まれた俺様の新しく出来た守るべきものだ。
ここ突かれたらマジキレる」
昼食時のアーサーの問いを思い出した。
なるべく感情をぶつけないように答えたからか、軽く流された気がする。
まあ、それでいい。
相手の負担にならないようにそうと感じさせないように守るのがプロだ。
「ま、俺様が守っててやるから、心配せず色々楽しんでいいからな?」
ちょうどアーサーが移動を始めたので、ギルベルトは誰にともなくつぶやくと、つけていたのを気づかれないよう一足先に家に着くために、クルリと反転して屋敷に向かって駆け出した。
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