「やっぱり…帽子だけじゃ足りねえなぁ…」
アーサーが立つジャガイモ畑から少し離れた大木の影にたたずむ人影。
片手には濡れタオルと水筒、片手には日差しよけのタオルケット。
いつ倒れても準備OK.。スタンバイ状態のギルベルト。
初めて畑で倒れているアーサーを連れ帰ったその日以来、実は毎日こっそり木の影で見守っていたりする。
慣れてねえときついし、いっそのことあのあたりだけ屋根つけてやるかなぁ…また日射病で倒れても困るしな」
と、軽く両手を広げて呪文を唱え始めたアーサーを横目に腕組みをして考え込むギルベルト。
子どものやる気や好奇心は多少のことがあっても止めずに育てるべし、という持論ではあるのだが、どこぞで倒れられるのは困る。
「まあそれはそれとして、植物は話しかけると元気になるってよく言うけど、アルトが話しかけてるあたりのジャガイモの葉だけ育ちがやけにいいってのは、あれは本当のことだったのか…今度研究してみる価値はあるな」
と、心配しつつもそれはそれとして、その好奇心の成果についての考察にも余念はない。
そう、ないのだが、やはり聡いギルベルトだとしても考えつくのはそこまでだ。
一般人にとっては魔法は火を出すか水を出すか、何をだすかはともかくとして、ただの武器という認識しかない。
唯一魔術師と言う人種がいる東の国でもそうなのだから、他の国ではなおさらだ。
なのでアーサーが隠すまでもなく、ギルベルトも含めて一般的には植物を育てるのに魔法を使うなどという発想はない。
ということで、ギルベルトの目には自分の家族のアーサーに、紅茶と刺繍などの趣味と同じく、植物に話しかけながらのんびり散歩をするという趣味があるとしか映っていない。
そして…ギルベルト自身には、そんなアーサーが途中で行き倒れないようにと、護衛としてこっそり着いて行くという、知らない人間がはたから見たらちょっと危ないようにも見える趣味が出来たわけだ。
まあ別にそう見えたら見えたでもギルベルト自身は全く構わない。
それよりもアーサーは一人にしておくと色々危険だ、と、ギルベルトは思う。
西の国の西南端に位置するこのあたりは晴れの日が多く陽射しが強く、ほとんどの民は農業を生業としている、西の国でも最も西の国らしいと言われてる地域だ。
北の人種のように特に大柄というわけではないが、多くは日の出と共に起き、畑で肉体労働をし、日の入りと共に寝るという暮らしのためか、ほどよく筋肉のついた体をしている。
ギルベルトは祖母は元々北の国の人間で容姿こそ北の国らしい容姿だが、生まれはこちらなので体質は西の国の人間と言っていいし、王族と言っても生活が保証されている裕福な王族として育っていないので、普通に自前の畑を子どもの頃から耕していた。
途中、戦地に赴いている間は近くに住む農民に世話を頼んでいたが、今も小さいながらも畑を持ち、暇を見つけては農業にいそしんでいる。
そんな生粋の西南人のギルベルトから見ると、アーサーは驚くほど白くて華奢だ。
下手するとこのあたりの女たちよりかよわいんじゃないかと思っていたら、ここにきて初めて一人で散歩に出た時、畑仕事をするわけでもなくただ散歩に出ていただけなのに、日射病を起こしたらしく倒れていた。
生まれはこの国の跡取りであるルートですら、もう少し頑丈なんじゃないかと思う。
体の強さだけじゃない。
箱入りのはずなのに用心深くギルベルト以外には断固として気を許さなかったルートと違い、アーサーは怯えをみせつつ結局流されるというか、危機感も今一つ足りない。
(結局…故郷から遠くに連れて来られて、うま~く閉じ込められてんのに気づいてねえもんなぁ…)
自分でそう誘導しておいてなんだが、こんなにぽわぽわしていていいものなのだろうか…と、本当に心配になる。
ギルベルトほどではないが強く育ったルートと違い、アーサーはホワ~っとしているうちに捕まえられて、それから慌ててじたばたと涙目で抵抗するタイプな気がする。
絶対そうだ。
それでいてなまじ捕まえたくなるような可愛らしい容姿までしているからたちが悪い。
『1人で外に出たら危ねえからな。誘拐されんぞ?』
と言う度、
「俺なんか誘拐する物好きいねえよ」
と返してくるのだが、言ってやりたい。
”じゃあ今お前はなんでここにいるんだ“
と。
本人の記憶がないから確かな事は言えないが、少なくともどう見てもそこそこの家の子息であろうアーサーが1人であんな戦場のど真ん中に放置されていたのは、異常事態だ。
1人で来たのでは絶対ないだろうし、そうなると、どういう事情であれ攫われてきた可能性しか見えない。
まあギルベルトに関してはそれを人道的立場から保護した保護者だからいい。
問題は…自分以外に不穏な輩が近づいた時だ。
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