聖夜の贈り物Verぷえ4章02

「お前ってさ…何かないのか?ここ突かれると嫌だなぁとか、そんな弱みとか大切な何かとか?」

あまりに疑われている様子が見えないので、いっそ本人に聞いたら答えてくれるんじゃないだろうか、と、アーサーはこれまたギルベルト自身が作った昼食を食べながら聞いてみた。

「急に何なんだ?」
さすがに唐突だったのか、首をかしげるギルベルト。

それでもその脳裏からはアーサーが実は現在敵対中の東の国の人間だなんて事実はすっぽり抜け落ちてるらしく、警戒する様子は全くない。
それを良い事にアーサーは話を続ける。

「いや、だってな、戦時中に得体のしれない他国の人間と二人きりで暮らすなんて王族、身の危険的な面からも体面的な面からもありえねえだろ。でもお前全然気にしてないみたいだし、なくすの怖いものとかねえのかなぁってさ…」

そう言いつつ、アーサーは、あちこちの戦場を渡り歩いているギルベルトが戦地で覚えてきたという、昨日のシチューの残りを具にしたエンパナーダにかじりついた。
油で揚げたもっちりした生地に思い切り歯をたてると、中からとろりとトマトをベースにしたシチューが口いっぱいに広がる。
普通にシチューとして食べるのも美味いが、こうして食べるとまた違う美味さがあり、一度のシチューで二度美味しい。思わず顔がほころぶ。

決して豪華ではないが、というか、むしろ質素な食事なのかもしれないが、ギルベルトの作る食事は、本人の性格を反映しているかのように、温かく素朴で優しい味がした。



「大切なものなぁ…」

少し大きめのエンパナーダを両手でしっかり抱えて、ほおぶくろに食べ物をつめこむリスよろしくもっきゅもっきゅ頬張るアーサーを楽しげな目で見ていたギルベルトは、少し考え込んで、結局

「俺様、物にはあんまり執着するほうじゃねえし、天才だから王族の身分がなくてもなんでもこなせるから生きていくくらいはできるしなぁ…。
強いて言うなら、今はアルト、お前くらいか…」
と、その頬についた食べカスをとってやりながら言った。

その答えにがっくり肩を落とすアーサー。

「俺かよ。お前って……本当に大切なものないんだな」

どこの世界に一ヶ月前に偶然助けただけの得体のしれない他国の人間しか大事な物がない人間がいるのだろうか…。
まあこの呆れるほど自分自身の事を顧みず、他人の事ばかり思いやっている人のよい男のことだ。助けたからにはちゃんと最後まで面倒を見るのが責任=大切と思っているのかもしれないが。

「あるだろ。聞いてなかったのかよ?」
「いや、だから俺しかないとかありえないだろ」
「ありえなくねえよ。アルトは俺の大事な家族だしな。家族より大切なもんなんてないぜ?」

心の底からそう思っているらしいギルベルトの言葉に、頬に熱が集まってくるのを感じたアーサーは、ついつい
「馬鹿かっ」
と悪態をついて、またガブリとエンパナーダにかじりつく。

ギルベルトはそれさえも可愛いというように笑って
「美味いか?育ち盛り。ほら、これも食え」
と、自分の皿のエンパナーダも差し出した。



テーブルに並ぶ料理はどれもギルベルトの手作りで、どれも文句なしに美味しかったが、その中でもこのエンパナーダは絶品で、食べたいのはやまやまで…

「でも…お前これ全然食ってないじゃん」
そう、ギルベルトと自分の皿にそれぞれ一つずつのっていたそれを、当然ギルベルトは全く口にしていなかった。

実家ではただ一人妾の子と蔑まされてきて、誰かがこんな風に自分の分をくれるなんて経験があるはずもなく、ましてやそれが美味しい物だったりした場合、どう対応していいかわからない。

おずおずとテーブルの上で指を動かしているアーサーを見てクスっと笑うと、ギルベルトは

「他にも食うもんはあるしな。
アルトが美味しく食べてくれる方が嬉しいからいい。
子供はガンガン食ってでかくならねえと」
と、自分の皿からエンパナーダをアーサーの皿に移してくれた。


(子供じゃねえんだけどな…)
と言う言葉は、記憶をなくしていると言っている都合上、胸の中にしまっておく。

というか…子供の頃から甘やかされた記憶がないので、帰還するまでの短い期間ではあるが、この際一生分ここで甘やかされておくのも悪くないかもしれない。

もちろん例によって
(べつに甘えたいとかじゃなくて、他の奴らが与えられたものを自分だけもらえなかったのが不公平だから、いまのうちに分捕っておくだけだからなっ!)
と、心の中で言い訳をつぶやいておくのは忘れない。


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