聖夜の贈り物Verぷえ3章07

「お待たせだぜ~」

とりあえず食事で釣ろうとしたギルベルトだったが、アーサーの方はどうも落ち着かない様子で、
「俺…一人で大丈夫だから、お前はもう行けよ」
などと言ってくる。

警戒…されてるのだろうか?
まあ…そうだよなとは思うものの、だからといって、はい、そうですかと放置するわけにもいかない。

相手が望むと望むまいと、拾ったからにはきちんと食事を摂らせるのは大人の義務だ。

なのでギルベルトはあえてアーサーの落ち着かなさに気付かないふりで、体調でも悪いのかと聞いてみた。

(これで駄目ならどうするか…)
アーサーの返答によっては何か食わせる工夫をしなければならないか…と悩んでいたギルベルトに、アーサーが示した反応は意外なものだった。

こんなご馳走用意してるという事は、一緒に食べる相手がいるんだろう?気を使うなと、泣きそうな目で唇をかみしめる。
そして結局こらえきれなかったのか、その大きな瞳からはポロっと涙がこぼれおちた。


(ああ、もう!!なんなんだ、こいつはっ!)
一気に脱力する。

お育ちが良さそうなわりにいや、お育ちが良いからか、子どものくせに随分と気を使う。
ギルベルトは基本的には自他共厳しい人間だし、弟分のルートも可愛がりつつもしっかりと自立して国を背負っていけるようにと、随分と厳しく育てたつもりだ。

だが、今目の前でポロポロ泣いている子どもには、なんというか厳しい事を言える気がしてこない。
厳しくしつけるよりは、甘やかしてやらないといけない子どももいるうん、仕方ない。
そう割り切ることにして、ルートには絶対に食事を食べきる前にはデザートに手を出させなかったのだが、料理と一緒に子どもが好きそうな甘いものをたくさんよそってやってしまった。

その上で、料理は誰かと予定があるわけではなく去年までの習慣で用意してしまったということと共に自分の身分を明かし、それにかこつけて最後の難関、アーサーの家について探りをいれてみた。

とりあえずこんなに可愛らしい子どもなのだから、親も心配はするだろう。
それは本意ではない。

かと言って、もし親が向こうの国のそれなりの身分の人間なら、ギルベルトの一存で返したりしたらさすがにオオゴトなので、事情説明の手紙と見舞い品くらいは届けて、丁重な扱いをしていることは伝えてやりたい。

まあ…あんな所に1人でいたということは、お家騒動か何かで命を取るまでのことは…と思って置いていかれたなどという可能性も皆無ではないので、それならそれで、身軽になりすぎてしまったギルベルトが引き取って育ててやることもやぶさかではないのだが…

むしろギルベルト的にはやはり一人の生活が堪えすぎて、気持ちがそちらに傾きすぎているきらいはあるが、それでも親が嘆き悲しんでいると言うなら、返してやらねばならない年の子どもではあるので、尽力は尽くすつもりだ。

そんな考えを胸に秘めつつ、とりあえず交渉するところからとアーサーの家の場所を尋ねると、返ってきた言葉は
「わかんねえ」
「何が?」
「……全部」

なんと怪我をした時に頭でも打ったのか、記憶が全て抜け落ちてしまっているらしい。

あ~これはと、喜んではいけないのだが、ギルベルトは内心浮かれる。
でもこの日このタイミングでこれというのは、本当にサンタクロースの贈り物なんじゃないだろうかと、ありえない事を思ってしまった。

敵国との戦いは国同士の戦いで、国民一人一人に対して悪意をもつものではない。
ましてやこんな子どもやその親の不幸を喜ぶなんて以ての外だ。

と、ギルベルトは油断すると緩みそうな顔を引き締めてそう思いつつ、

「心配すんな。何も覚えてねえなら俺様と住めばいい。
俺様がコトリさんのように華麗にお前の面倒は全部きっちりみてやるから」

と、安心させるように少しだけ笑みを浮かべて、その頭を静かになでると、少年に食事を摂るように促して、自分も一緒に食事をとった。



Before <<<   >>>Next (1月15日0時公開予定)


0 件のコメント :

コメントを投稿