少年が目を覚ましたのは数時間後。
少しうるんだ大きな瞳がおびえたように揺れていて、そのくせ口だけは強がった言葉を吐くその様子は、まるで一生懸命周りを威嚇している初めて外に出た子猫のようだ。
(めっちゃ、可愛いな、おい!!!)
何か心の奥底からこみ上げてきて、転げ回りたいような気持を必死に隠し、ギルベルトはなんとか平静を装って、少年にここに連れてきた事情を説明する。
(ぽわっぽわで子猫の毛みてえ髪!!俺様ごのみの撫で心地だな)
クシャクシャに撫でまわしたい衝動を必死に押さえて、ソッと撫でるにとどめたピョンピョン飛び跳ねた少年の短い金糸の髪は、見た目に反して柔らかい。
どこをどう見ても箱入りのお坊ちゃんなのに、本人は一人前と思っているらしく、自分が敵兵だったらどうするんだ、などと口をとがらせている様などは、可愛すぎて頭を撫でずにはいられない。
(駄目だっ!これはマジ駄目じゃね?!!ちょっと頭冷やしてこねえと…)
このまま相手にしていると可愛すぎて奇行に走ってしまいそうだ。
しかたなしに料理を温めてくる事を理由にいったん席をはずす。
「とりあえずまずは美味しい飯だな」
子供の歓心を惹くのに一番手っ取り早そうなのは美味しい食事だろうと、ギルベルトは3人しか置いてない使用人の中で料理を担当しているメイドに、用意させておいたクリスマスの食事を温めるように命じる。
「どなたかお客様をお招きになられたんですか?」
温められた料理をワゴンに並べて持ち運ぼうとするギルベルトに不思議そうに首をかしげるメイドにはついでに
「あ~子猫拾ったんだ。部屋にいるから俺様もそっちで食うわ。
で、その猫怪我して弱ってて神経質になってっから、俺様の部屋に近づかねえでくれ。
掃除も自分でするから」
と、部屋に入らないように釘をさした。
とりあえず今日は良いとして、これからどうするか…。
人目につかせないためには出来れば故郷、ルートと過ごしたあの邸宅に戻りたい。
が、それにはまず少年、アーサーの了承が必要だ。
大人が子どもを無理やり連れ出せば立派な誘拐。
たとえ自分が王族で相手が敵国の子どもであっても、人道的に許されることではないと思う。
が、そのまま放り出せば身の危険があるかもしれない子どもをまた元の場所にというのも非人道的だし、なによりギルベルト自身の心が痛みすぎる。
「さて、どう説得すっかなぁ…」
他国人でもギルベルトの側は全く無問題なのだが、アーサーにしてみればいくら命を救われたとはいえ、いきなり外国の知らない場所に連れて行かれる事に抵抗がないわけがない。
親も恋しいだろうし、危険だからと言っても、いつ戻してやれると確約もされないまま、ついては来ないだろう。
「はぁ~…どうすっかなぁ…」
結論が出ないまま、ギルベルトはワゴンを押して自室に戻った。
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