聖夜の贈り物Verぷえ3章05

本当にまるで現実離れした夢のような経験だったが、抱き上げた腕の中の重さが、これが夢でない事を証明している。

ギルベルトがざっと見た範囲では幸い頭の傷はそう深くはなかったが左腕に割れたガラスが刺さっていて、止血はしたものの、かなり出血していたのでなるべく早くきちんとした処置をした方がいい。

少しでも早く館へ着くように走りたいが、あまり揺らすのもよろしくないだろう。

「すぐちゃんと手当してやるから、頑張れよ」
聞こえてないのを承知で時折声をかけ、ギルベルトは夜道を急いだ。


そして西の国の陣営までなんとかたどり着くと、つないであった馬に乗り館へ向かう。

少年は途中一度目を覚ましたようだったが、すぐまた意識を失い、今に至っていた。
その時に聞いたアーサーという名前は西の国にはあまりない名前で、あらためて少年が自国の人間ではない事を確信したが、ギルベルト的にはそれはあまり問題ではなかった。

そもそもあんな非現実的な拾い方をしたわけだから、もしかしたら本当に一人になってしまった自分へのサンタクロースからのプレゼントなんじゃないかとさえ思えてくる。

「まあ、それなら責任持って世話するけど…
人間としたら親元から放すにはちっとばかり早い年齢な気がしないでもねえな」

最初の家族ルートと違い赤ん坊でこそないものの、うでの中の少年はふっくらと柔らかい頬をしていて、一瞬意識を取り戻した時に開いた瞼の下の綺麗な緑の瞳は丸く大きく、全体的にまだ幼い印象を受けた。

体格もまだ華奢で、これはもうふっくらはしてないもののギルベルトより一回りは小さな手は、剣をふるううち固くなる大人の手とは違い、まだ柔らかさが残っている。

このあたりでは大抵15才くらいで戦場にでるから、それより前…1213才くらいなのではないだろうか…。
どちらにしてもまだ保護の必要な年の子供である事は間違いないように思われた。

なのに、親元に返す…という発想が不思議と出てこない。


「とりあえず…こいつの着替えと日用品用意しないとだな…」
と口にしている時点で、もうダメだった。

1人でも平気だと思って淡々と暮らしていたが、家に帰ると自分を必要とする家族が自分を待っていたりすることに意外に飢えていたらしい。

「おいおい、だめだろ。
育ち良さそうな雰囲気あるし、きっといい家の坊っちゃんだろこいつ。
親御がめちゃくちゃ心配してんぞ」
一人馬上で首を横に振ってみるも、一度浮かんだ考えは容易に消える事はない。

「でもうちの国の人間じゃなかったとしたら探しにこれねえしなぁ。
どうしようもねえよな…。
さすがに東の国の子どもの親を探したいとかは俺様でも言えねえし。
むしろ権力者の子とかなら、居るのがバレたら危ねえんじゃね?
バレなきゃ俺様も保護くらいはしてやれるし…」
と、いつのまにか思考はいかに返さないかという方向に向かっている。

最初はわずかにはあったはずの自分の考えがおかしいと思う気持ちはもう遥か彼方に飛んで行ってしまっていた。

「本人が帰りたいって言ってきたらまあ対処は考えるってことで、そうじゃなければ、こいつはうちでこっそり面倒みるってことでいいか…」

館へ着いた頃にはそう決意が固まってしまっていて、ギルベルトは家人の目に触れないように馬を降り、人目につかないよう少年を自室へ運んだ。

一人で血で汚れた衣服を着替えさせ、体をふいてやり、真新しい寝間着に着替えさせる。
移動してくる間に腕の怪我の血も止まっていたのできちんと消毒をして包帯を巻いた。

「これで…とりあえずいいか」
一応戦場生活は長いので切り傷等の手当ては慣れている。

「まあ…これで身軽な一人暮らしとはおさらばだな。
バレねえうちにちゃっちゃと自分ちに帰るか~」

面倒ごとを抱え込んだ気もするが、それも全く気にならないどころかむしろ機嫌よくそう言うと、ギルベルトは少年を寝かせたベッド脇に椅子を持ってきて、鼻歌混じりに少年が目をさますのを待つのだった。



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