聖夜の贈り物Verぷえ3章04

「あ~、これかぁ…。届けてやんの明日でいいよな。
今日来られても邪魔だろうし…」
誰もいなくなった陣営跡地で、ギルベルトは小さなお守り袋を拾って懐にいれた。


それは急いで身支度をして家路に着いた兵士が、慌て過ぎて落としてしまったものだ。
帰宅途中にその事に気づき、探しに戻ると子供が起きている時間に帰れないと嘆いていたのを小耳にはさんだギルベルトが、恐縮しまくる兵士から半ば強引に回収を請け負ったのだ。
どうせ早く帰宅しても待つ人間もいない気軽な身である。

大切な親の形見ということなので、とりあえずあっさり見つかった事にホッとして、さて帰ろうと町の方へと足をむけかけた時、
「にゃ~っ」
と物陰から茶色の塊が飛び出してきた。


「なんだよ、お前、昼間の猫か。また会ったな」

笑顔で話しかけるギルベルトの足元にタタっと駆け寄ったその猫は、ギルベルトの足をカリカリと軽く前足で掻くと、タタっと離れて振りかえり、また何かを訴えるように

「にゃ~っ」
と鳴いた。

「なんだ?どうしたんだ?」
ギルベルトが少し首をかしげると、猫はまたタタっとギルベルトの足元にかけよって、同じ動作を繰り返して鳴く。

「ついてこいってことか?」
さらにそう聞いてみると、猫は
「にゃあっ!」
とひときわ高く鳴いてタタっと駆け出し、時折ギルベルトがちゃんとついてきているか確認するように止まって振りかえった。

不思議な猫だが、別に害があるような気はしない。

むしろ…
「なんかいいもんでもあるのかよ。今日も人助けの良いこの俺様に、サンタのプレゼントだったりしたら笑えるぜ~」
と、少し楽しい気分になってくる。

こうして猫と男が走る誰もいなくなった夜の戦場跡は、一面真っ白な雪野原になっていた。

「うあ~、ホワイトクリスマスか。綺麗だな、猫。
1人楽しすぎるからこそ、こんなのゆっくり見られると思えば、俺様最強じゃね?
なんか楽しい気分になってきたわ」
白い息を吐きながら走るギルベルトが言うと、それにこたえるように猫が
「にゃ~ん」
と鳴いた。

しかし浮かれた気分でひたすら猫のあとを追いかけていたギルベルトは、戦場の中央、国境あたりまで来ている事に気づき、少し警戒をし始める。

「おい、まだ走るのか?そろそろ国境なんだけど…。
お前さんは良くても俺様はこの先はちとまずいかもしれねえぞ?」

少し歩調を緩めて困ったように声をかけるギルベルトに、猫は

「にゃあ~ん」
と甘えるように擦り寄ると、また走り始めた。


「もう…ここでデレるとかずるくね?しかたねえなぁ…」
このしたたかさはメス猫か…などと思いつつ、ギルベルトは苦笑してまた走る。
しかし心配はいらなかったようだ。

少し走ったちょうど国境を超えるか超えないかあたりの場所で、猫はピタリととまると、暗闇に向かって
「にゃ~」
と声をあげた。
そしてそれに呼応するように、目の前の猫より細い
「にゃあ~」
と言う鳴き声。

「なんだ?友達がいるのか?」
ギルベルトがそう声をかけた時、崩れた建物の影から、ずるずると布が這い出てきた。



「うあっ!」
さすがに驚いたギルベルトが一歩後ずさると、猫は
「にゃ~」
とまた鳴いて、布の端を加えてずるずると引っ張った。

すると布の下から、小さな茶色の子猫が這い出てきて
「にゃっ」
とまた建物の影に戻って行く。

それをぼ~っとみていると、隣で猫がせかすように
「にゃあっ」
とギルベルトを見上げた。

「なんだよ?ついていけってか?」
「にゃ」
猫にうながされるまま崩れ落ちた建物に足を踏み入れたギルベルトの目にまずうつったのは、真っ白な中に埋もれた金色…そしてそれを彩る赤。
色合いの美しさにまず息をのんで、次の瞬間ハッと我に返る。

「大丈夫かっ!生きてるのかっ?!」
それが血を流している人間だと言う事にきづくと、誰に言うでもなく叫んで駆け寄った。

西の国ではあまり見ないデザインの服をまとった光色の髪に真っ白な肌の少年。
崩れ落ちた窓ガラスで後頭部でも切ったのか、金色の髪にまるでリボンのように赤が混じっている。
落ちてきた壁で汚れたらしく背中の部分が少し汚れているものの、真っ白なシャツは材質の良さそうなものなので、少年が庶民の子供でない事を容易に連想させた。

「こいつを助けたくて、俺様を引っ張ってきたかったのか?」
少年の前にしゃがみこんで上着を脱ぐギルベルトの横に寄り添うように座っている猫に声をかけると、猫はなんだか満足そうに
「にゃ~」
と鳴き声をあげる。

「了解了解、安心しろ。こいつは俺が連れて行くけど、いいんだよな?」
シャツ一枚でさすがに寒そうな少年を自分の上着でくるみ、ギルベルトがそう確認を取ると、大小の猫が声を揃えて
「にゃあ」
と了承の意を唱えた。

そしてとりあえずの応急処置を終えてギルベルトが少年を抱き上げると、おそらく親子であろう大小の猫はそれぞれギルベルトの左右の足に頭をすりよせてからギルベルトを見上げ、よろしくとでも言うように、
「にゃあ」
と一声鳴くと、夜の闇へと消えていった。


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