聖夜の贈り物Verぷえ2章02

「………」
どこをどう突っ込んだらいいのだろうか……。
そもそも突っ込んでいいんだろうか?



仮定1…男は実は魔術師で、魔法で一瞬で料理を出した。
…これならすごい。

魔法と言えば皆なんでもできると勘違いしているが、そうではない。
元々存在する物質を組み替えて炎や水を作って、それをそのまま火種や飲み水に使ったり攻撃に使ったりしているだけで、こんな複雑な事をできるなんて聞いた事はない。
そんな事が可能なら、ぜひやり方を教えて欲しいくらいだ。

が…おそらく東西南北で唯一魔術師を有する東の国でも屈指の魔術師一家の自分の家でも聞いた事がない以上、その可能性はほぼないだろう。


仮定2…自分が意識を失っている間に自分と食べるために用意してた。
まだ夜があけてない事を考えると意識失っていた時間はせいぜい数時間。
この数々の凝った料理にかかる時間を考えれば、これもない。


仮定3…男はなんらかの理由で食べきれないご馳走を並べて一人で寂しく過ごす予定だった。
うん…なんだかこう…目の覚めるようなイケメンだけど、なんとなく女の影を感じないと言うか…女がいそうな雰囲気がない…うん…なんとなくだけど…

と、思った瞬間、ハッとした。

これは…絶対に突っ込んじゃいけないっ!
同じ若い男としてこれだけは突っ込めない!
以上!次っ!


仮定4…アーサーが気を使うと思って一緒に過ごす相手はいないと嘘をついている。

と、これが一番可能性高いだろうな…と、アーサーは人のよい男を見上げた。
泣きそうな気分なのは、生まれて初めてここまで自分に親切にしてくれる人間に会った嬉しさなのか、結局一人きりなのは自分だけだと実感した悲しさなのか、自分でもわからない。

ただわかるのは、大切な人達と過ごすはずのクリスマスに、この男を自分が拘束していいわけはないという事だけだ。

いや…単に一人じゃないと落ち着いて居座る理由が考えられないからだけどなっ!と、アーサーは頭の中でまたおさだまりのセリフを繰り返して、慌ててその考えを打ち消す。

そしてともすれば泣き出しそうな自分を叱咤しつつ
「お前こそ…気を使う必要はないぞ。別に俺は一人でも平気だしっ」
と早口で言うと、泣きだす前にグッと口をつぐんだ。

…が、視界がぼやけているところをみると、手遅れらしい。

ポロっとこぼれて頬を伝った涙を男は困ったような笑みを浮かべて指でぬぐうと、

「別に気ぃなんか使ってねえよ。誰もいねえのはホントの事だしな。
俺様自身の我儘通していいんだったら、お前の事心配だし離れてたら気になるからここにいてえんだけど…いてもいいか?」
と、また子供にするようにソッとアーサーの頭をなでた。

単に空気を読まないマイペースな人間なのか、お人よしな大人なのかよくわからない。
それでも男は飽くまでアーサーの自尊心を傷つける事なく、して欲しい事をしてくれようとする。

それが心地よいものの、そんな人間に会うのは初めてでどう反応していいのかわからないアーサーに出来たのはただ、ぷぃっとそっぽを向きながら

「どうしてもいたいならいてもいい」
と可愛げのない子供じみた返事をする事だけだった。

そんな態度に気を悪くするでもなく、男はやはり子供を見る目でクスリと笑みをこぼすと、
「ダンケ」
とまた頭をなでてきた。


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