ベッドで眠るイギリスの足元で、プロイセンは指先で子どもをあやしながら話しかける。
「ぱぁぱ…だぁ……」
赤ん坊はゆっくりと動かすプロイセンの指をきゃっきゃ笑いながら追いかけて、掴ませてやるとはむはむとほとんど歯のない口でかみかみする。
「くすぐったぁ……へへっ……食えねえって!お前ほんと食い意地はってるな」
プロイセンは笑って赤ん坊を抱き上げた。
「本当に可愛いな。お前もイギリスもめちゃくちゃ可愛いわ。
なんだか俺様、若い嫁さんもらった父親みたいな気分になってきたわ」
プロイセンがそう言った瞬間…ポフン!と目の前に煙が広がった。
「な、なんだっ?!イギリスっ?無事かっ?!!」
プロイセンはしっかりと赤ん坊を抱え直すと、慌てて窓を開け、煙を追い出してベッドに駆け寄る。
「……んぅ?」
「へ?」
煙が消えたベッドの上にはサラサラの長い髪の女の子。
白い華奢な手で目をこすりこすり身体を起こすと、男物のシャツがズルリと細い肩からずり落ちる。
元軍国で非常時の対応などお手の物。
大抵の事には動じないプロイセンもさすがに硬直した。
「…あれ…プロイセン……どうしたんだ?」
コクンと首をかしげると、金色の髪がサラリと肩からこぼれ落ちた。
「いや…どうしたって……お前こそどうしたんだよ?」
と、目を丸くするプロイセンに、イギリスは不思議そうにあたりを見回し、次に自分の手、身体を見ていきなり
「やったっ!!!成功だっ!!!!」
とこぶしを握りしめて叫ぶ。
「いやいやいやいや、何が成功なんだ?お前はいったい何したいんだ?
俺様ぜんっぜん状況についていけねえんだけど……」
ありえない…いくら不思議国家といえどありえないと思う。
というか、もうこれは夢なんじゃないだろうか…と、意外に柔軟な考えを持つプロイセンに思わせる事ができるのは世界広しと言えどもそうは多くないだろう。
「あのなっ、アリスがずっとミルク飲んでくれなくて、調べてみたら哺乳瓶の乳首のゴム臭いのが嫌な赤ん坊もいるっていうから…」
「いや…哺乳瓶の乳首より哺乳瓶の中身が嫌だったんだと思うぜ?」
というプロイセンのツッコミは当然無視される。
「母乳だったら飲んでくれるかと思って、女になろうと思ったんだっ!!」
プハっとプロイセンは床に突っ伏した。
もちろん赤ん坊はすでにベッドに戻し済みだ。
「お前…どうしてそうなんだよ?!」
「なんだよっ!名案じゃないかっ!!」
「あのなぁ……赤ん坊産まないと母乳出ねえぞ……」
「……あっ………」
プロイセンはガックリと肩を落とした。
「そもそも…なんで今頃なんだ?」
「えっと……難しい魔法だったから…なんだか時間差で効いたとか?」
「効いたとか?はいいけど、いつ戻れるのか?」
そうプロイセンが尋ねたとたん、イギリスの顔からさ~っと血の気が引いた。
「……まさか…?」
「…い、いや……だって……アリスが死んじゃうとか思って必死だったし……」
「こりゃ、だめだ……」
プロイセンは額に手をやって空を仰いだ。
「だ…だって……」
ジワリと大きな瞳から涙がこぼれ落ちかけた時、プロイセンが唐突に言う。
「行くぞ。とりあえず短パンか何かはいとけ。靴はしかたねえ、サンダルか何かないのか?」
「え?」
「買い物っ!アリスの服とかオムツとか…お前の服も必要だろっ。
俺様が車運転するからさっさと支度しろっ」
そう言ってプロイセンは赤ん坊を抱き上げて、イギリスに視線を向けたままクローゼットを指さした。
「…う……仕方ないから着替えてやるっ」
プイッと赤くなった顔を隠すようにイギリスがそっぽをむくと、プロイセンは
「はいはい。頼むわ。そのエロい格好で外出られたら俺様が買い物にならねえから」
と、は~っと大きく息を吐き出した。
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