ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん原作_9

ああ…なんだかうるさい…
アオイは目を閉じたままそう思った。

体がだるい。突き出した様にしている両手には冷たい感触。人の肌のような…誰かの腕…にしては太い気が…。
近くで知らない複数の人間の声…。


その時…
「うあああ~~~!!!」
という聞き慣れた人物の悲鳴でアオイはようやく目を開けた。

伸ばした手の先にあった腕と思ったのは首で…茶色のウェーブのかかった髪が手にかかってくすぐったい…などと半分寝ぼけた働かない頭で考えた。

(…あれ?)
まばたき二回。

目の前には…目を見開いたまま動かない女の子…アリス。

自分の手がかかっていたのは、まぎれもなく彼女の首で……

「きゃっああああ!!!!!!!」
アオイは慌てて手を首から放すと思い切り悲鳴をあげた。



ユートが目覚めたのはアオイよりも少し前である。

遠くで誰かの声がする…と、重たい瞼を開けてみるとまず目に入ったのは少し離れた所で誰かを呼んでいるらしき知らない大人の男。
なんだか寒くて膝が重たいと、次に目を落とすと自分にのしかかる様にしているアリスと、その首に手をかけた状態でぐったりしているアオイ。

悪夢のような光景に思わず悲鳴を上げた。
それでアオイが虚ろに目を開ける。
そして数秒後…アオイも絶叫。

皮肉な事にそのアオイのパニックぶりでユートは我に返った。

「動くなっ!」
と、男が3人。

警察手帳を見て青くなるユート。

どうやらアリスは死んでいて…寒いと思ったのは自分がシャツをはだけていたからで…そのアリスの首にはアオイの手がかかっていたわけで……。
関連性を考えると目眩がした。

必死に記憶を探るがアリスにうながされて屋上についてからの記憶がない。

「アオイ…落ち着いて」
とりあえず声をかけると、ヒックヒックとしゃくりをあげながらユートを見上げるアオイ。

「事情を聞かせて頂けますか?」
さらに表から回ってきたその人影を見て、ユートはホッとした。

偶然にも…前回巻き込まれた殺人事件で事件を担当していた赤井だ。
まあ…本当は偶然ではないのだが、当然ながら事情を知らないユートにそんな事がわかるわけもない。

「赤井さん…俺…覚えていらっしゃいますか?
前回の風早邸の事件で碓井と一緒にいた近藤なんですが…」
ユートの言葉に赤井はユートとアオイを困った様に交互に見比べた。

「ああ、あなた方でしたか、しかし状況的にお二人は今非常に困った立場におかれているんですが…」
「碓井…多分校内にいると思うので…呼んでいいです?」

もうプライドとかそういう場合じゃない。
思い切り殺人の容疑者だ。
他に打開案などあろうはずもない。
ユートが言うと、赤井は苦笑した。

「実は別件で碓井さんに呼ばれてここにいるので…連絡します」


とりあえずコウが来るまではとアオイも説得してそのままの状態で。
ユートは動けないため言葉でアオイを慰める。

「大丈夫、コウがなんとかしてくれるから」
自分でも思い切り情けない台詞だが、アオイまで巻き込んでこの状態で体すら動かせない今の自分が他に何を言っても説得力がない気がした。

「私…屋上ついてからの記憶ないのっ。ホントだよっ。何にもしてないっ」
ひたすら泣きながら言うアオイに
「うん、わかってる。俺もだから。大丈夫、コウが証明してくれるから」
とユートはなるべく自分の動揺を表に出さない様に、極力冷静を装って繰り返す。

そんなやりとりを繰り返しているうちにコウが来た。


すぐフロウをマリア像のあたりで数人の警察官と待たせて自分だけ階段裏に回ると、いつになく厳しい表情で無言で状況を見回す。
いつもならある一言がコウからない事にアオイが不安げな表情でユートを見た。

「ほぼこの構図で、変わってるのはアオイの手が電波の首にかかってた事くらいだな?」
前置きもなしにコウが確認をいれてくる。

一瞬誰に言っているのかわからず無言で硬直していると、

「ユート!そうだなっ?!」
と厳しい口調で名指しされてユートは慌ててうなづいた。

「で、ユート、アオイ、それぞれ何故ここにいるか説明しろっ」
さらにピシっとした言い方をされて思わず硬直するアオイ。

ユートはそれをかばうように、まず自分の状況を説明する。

といっても体育館でアリスにあって、アリスが指定する場所で一度だけ好きだと言えば今回は諦めると言われて屋上へ連れて来られた事、屋上へ来てからの記憶がない事程度しか言えない訳だが…。

ユートが話し終わると今度はアオイがユートに電話をかけたらメールで屋上にくるように言われて来て、ユートと同じく屋上についてからの記憶がない事をコウに伝える。

それを聞き終わると考え込む事5分。
コウは相変わらず厳しい表情で淡々と言い放つ。

「ユートと電波の浮気現場を見たアオイが逆上して電波を絞め殺したと」

アオイは顔面蒼白で気を失いかけ、ユートは言葉もなく口をパクパクするが、まだ途中だったらしい。
その後コウはそんな二人には全く構う事なく続けた。

「ありえん馬鹿なシチュエーションを考えついたもんだな。
稚拙すぎて開いた口が塞がらん」
言いながらコウは手袋をはめなおす。

「ユートもアオイももう動いていいぞ。その辺座っとけ」

その声にはじかれたようにユートとアオイが端に寄ると、コウはアリスの首の辺りを丹念に調べた。
ついでアリスの手、それからブラウスの上の方のボタンを外して背中を確認する。

「アオイ、ユートの背中のどこかに紅い跡ないか探しとけ。
それが終わったらお前も誰かに確認してもらえ」
一通りアリスを調べるとコウはそう言って手袋を外した。

「本当に行き当たりばったりの稚拙な犯行のようですね。馬鹿馬鹿しいほど…」
吐き捨てるように言うコウに赤井は
「そう…なんですか?」
と聞き返す。

「警察としては容疑者を放置もまずいでしょうし、二人としばらくここで待機お願いします。
俺はこれから物証を確保してきます」

そう言うとコウは調べて欲しい点をいくつか指示した後、マリア像の前に待たせておいたフロウと共にまた校舎内に戻って行った。



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