ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん原作_8

とりあえずフロウを着替えさせてコウは藤と和馬と共にフロウを連れて職員室へと向かう。
事情を説明する藤に青くなる教員一同。


「警察…ですか…。なるべく大げさにならない方向で無理ですか?」
まあ学校側としては当然の反応だ。

「被疑者の確保を先送りにして二次被害を出す方が問題が大きくなると思いますが?」
コウが言うと、さらに学校側は青くなる。

そこで厳しい顔で詰め寄るコウの肩をポンと軽く叩いて、和馬が一歩前に出た。

「とりあえず…現場は屋上なので警察には主に屋上の封鎖と屋上の調査をしてもらって、校内には一応屋上で怪しい人物がスタンガンで人に怪我をさせたのであまり人通りのない所に一人で行かない様にという注意だけうながして下さい。
その程度なら学校内に不審な人物が学祭に乗じて紛れ込んだ事故ということですまされますし、問題ありませんよね?」
にこやかに妥協案を出す和馬にホッとしたように了承する校長。

そこで和馬はさらに続けた。

「もちろん二次被害の心配もありますから、このままでは危険です。
そこで提案なんですが…僕とこの碓井はこちらの卒業生風早さんや在校生の一条さんと親しくさせて頂いている海陽の学生で、二人とも元生徒会役員なんです。
ですので、うちの学校の前年度及び現生徒会役員にボランティアとして校内パトロールをする許可を頂けないでしょうか?
全員海陽の中でも文武両道に秀でて、人間性も認められて生徒会に選出された人材ですし、身元ももちろん確かな者ばかりで、校内で問題を起こす様な事はまず致しません。
物々しくもならないように、”品位ある祭典”に相応しい格好もさせますので、親しくさせて頂いている高校による好意によるボランティアという事でだめでしょうか?」

海陽生徒会…普通の学生からの申し出なら当然とんでもないと言ったところだが、日本で一番優秀と言われる学校の更に選りすぐりのエリート集団だ。

「彼らの身元については私の方でも保証します。お願いします」
迷う学校側に藤も頭を下げる。

そこでコウも諦めた。

「一応…俺の父は現在の警視総監で…今回来る警察の方々は俺が親しくさせてもらっている海陽OBの本庁警視の口添えで来て頂くので、ある程度の事を一任させてもらえる事になってます。
なので、誓って後輩達にも暴走はさせませんし、自分自身も暴走はしません。
あくまで”友情によるボランティア”の域を出ない様にしますので、許可願えないでしょうか」

ああ、これ父親にバレたら…とは思うものの、今回だけは非常事態だ。
跡はすぐ消えるだろうが、フロウの肌に傷を付けた事には変わらない。
今回の犯人だけは絶対に逃すつもりはない。

最終的に学校側も折れて了承した。
元々コウはフロウの送迎で日々聖星に出入りしていて、ある程度教師達とも面識があり親しくなっていた事、名門進学校の生徒会関係者なら周りに対して悪い印象を与えないだろう事、卒業生の中でも学校に対して影響力の大きい風早藤が身元保証を申し出た事などが主な理由だ。

コウはそこで学校側の要請を受け入れ、赤井にはなるべく目立たない形での来校を要請する。
赤井達はすでに出てしまっていたものの、サイレンを鳴らさずこっそり学校に入り、そのまま職員室入りする。

「お待たせ致しましたっ!お疲れさまです、碓井さん。本日も宜しくお願い致します」
相変わらず腰の低い赤井にコウは少し苦笑した。

「いえ、こちらこそ宜しくお願いします」
コウは赤井に頭を下げて、校長に紹介。
それから事のあらましについて説明する。

「ではとりあえず屋上封鎖させます」
と、赤井が敬礼して出て行くと、
「じゃ、あと任せていいか、和馬」
とコウもついて行こうとするが、和馬がそれを制した。

「ちょっと待て。お前の名前で呼び出してるし、やってもらう事もあるからその後にしろ。」
和馬は言った後、また携帯をかける。

「相田!お前何グズグズしてる!10分で来いって言わなかったか?!」
『和馬さん…そんなの無理ってわかってますよね?わかってて言ってますよね?』
電話口ではなさけな~い声を出す相田。

「不可能を可能にする、それが海陽生徒会だっ。
現生徒会長がそんなヘタレでどうするっ」
それに対してきっぱり言い切る和馬。

そう…コウ達が引退して、次回の選挙で相田が現会長になっている。

『とりあえず…今タクシーが聖星つきましたっ。いったん切ります!』

和馬が最初の電話をかけてから40分ほど…。
休日にいきなり呼び出されたわりにはすごい早さだとコウは感心した。

まあ…去年生徒会の書記をやっていて和馬の命令に背いたら人生終わるくらいの勢いで躾けられているので、それなのだが…。

そんな事をやっている間に、警察もついた事だしと、藤が全校に向けて屋上でスタンガンで怪我をさせられた人間が出た事、そのため現場である屋上を警察が封鎖している事、ひとけのない場所に一人で行かない事を放送で注意を促す。

ざわめく校内。
教師達も少し表情を硬くした。



「お待たせしましたっ!」
そこに相田が大きな鞄を手に職員室へと駆け込んできた。
「遅い!30分の遅刻だっ」
容赦のない和馬。

息を切らせる相田の鞄をひったくり、その中から一着の服を取り出してコウに放り投げた。
見覚えのある…その黒い服を見てコウはため息をつく。

「まさか…これ着るのか、また…」
「見回りだとすぐわかる程度に目立ち、さらに礼に外れない我が校伝統の正装に文句をつける気か」

そう…前回の海陽の学祭でコウ達生徒会役員が全員着る羽目になった海陽学園開校当初の生徒会長の儀礼服のレプリカだ。

「これ…今は着るとしたら相田じゃないか?」
一応生徒会長、副会長、一般生徒用がある。

前回はコウもまだ生徒会長だったので生徒会長用のを着たが、今の会長は相田で自分は一般生徒だ。

しかしそんなコウの指摘に当の会長の相田が
「いえっ!コウさんは永遠の会長、永遠のカイザーですからっ!」
ときっぱり断言する。

「ま、そういう事だ。良いからちゃっちゃと着とけ」
和馬が言うのに、それでもコウは抵抗を試みた。

「でも…普通の制服で十分だろ、許可でんぞ、こんなもん着たら」
というコウのつぶやきに、今度は聖星の校長がにこやかに
「さすが海陽学園、伝統と格式を感じさせる礼服ですね。
これなら校内を見回って頂いても結構ですよ」
と着ないという可能性をつぶしてくれる。

「諦めろ」
にこやかに着る事をうながす和馬に、コウは大きくため息をついて別室を借りて着替える。

コウが着替え終わって職員室へ戻った瞬間、内ポケットに入れた携帯が着信音を鳴り響かせた。


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