生贄の祈りver.普英_10_1

「とりあえず場所変えるぞ。
ここだとまたアルトが心配して戻ってくるかもしれないし。
あいつにあんま殺伐とした話聞かせたくないから」
そう言ってギルベルトはフェリシアーノを部屋の外にうながした。

そのままフェリシアーノに与えられている部屋まで行く。


部屋にはソファと椅子があり、ギルベルトはフェリシアーノにソファに座るように促し、自分は固い木の椅子に腰をかけた。

アーサーの友人と言うだけで態度が変わったのだろうか?と思いつつ、フェリシアーノは

「陛下がソファに…」
と勧めるが、自分を見るギルベルトの視線は相変わらず冷ややかだ。

そしてそのギルベルトの
「ソファだと攻撃仕掛けられた時に対応しにくいからな」
と言う言葉に、フェリシアーノはまだ自分が信用されてない事を知った。

そう思ってよく見てみれば、なにげなく組んでいるように見える腕の先のあたりには、すぐ手が届くような位置に短剣のベルト。
怪しいそぶりを見せればすぐ刺されるのだろう。

風の国の王のフランシスは確かフェリシアーノといても丸腰だった。

このあたりが生まれついての大国で自国にいる間は完全に安全な状態で育った風の国の王と、生まれた時は小国だったのを自らの手で大国にのしあげた武闘派な太陽の国の王の違いなのだろうか。


「あの……」
「風の色魔との関係。
部屋抜け出した理由と方法。
アルトにあってから交わした会話。
話すべきこと、話して良いのは以上だ」
とりつくしまもなく言い放たれる。
殺気こそないものの、冷ややかな視線にさらされ、フェリシアーノは居心地悪く身じろいだ。


「さっさとしてくれ。俺様はさっさとアルトの様子見に行きたいんだ。
熱でも出してたら大変だしな」
若干苛立ちの混じる言葉。

その王の苛立つ様子も気になったが、それ以上に気になったのは…
「アーサー、どこか悪いの?」
自分も人の事は言えないが、アーサーはずいぶんと華奢な体格だった気がする。

肌の色もともすれば青白い印象をうけかねないほど透き通るように白く、どこか身体を悪くしていると言われれば、そんな風に見えなくもない。

もしそうだとしたならば、少し一人で出歩いただけで周りが顔色を変えて探すのもうなづける、と、フェリシアーノが尋ねると、ギルベルトの纏う空気がさきほどまでは消えていた殺気を放った。

「何企んでるんだ?あいつに何かしたらお前だけじゃない、小川の国の人間、女子供に至るまで一人残らず八つ裂きにするぞ?」

本気の目だ。
フェリシアーノは焦る。

「そ、そんなんじゃ…ただ俺心配で…」
「心配?風の色魔の手先があの子の心配だって?笑わせる!」
ハっと鼻で笑うと、ギルベルトはフェリシアーノをにらみつけた。


「いいか?俺様は例え戦争起こす事になっても、あの子を色魔のおもちゃにはさせねえぞ?」

ぎらぎらと燃えるような深い真っ赤な眼。
淡い色合いの春の新緑を思わせるアーサーの瞳とは全く印象が違う、戦いに生きる人間の目だ。

「王様は…本当にちゃんとアーサー大事にしてるんだ…」

それが一時的な執着なのかどうかはわからない。
でも風の国の王の自分に対する興味とかとは全く違って、少なくとも今この瞬間は、この太陽の王は遊びでも興味本位でもなく、あの子を大事に思っているらしい。
そう思うとフェリシアーノはホッとした。


「王様、俺、別にアーサーに悪い事してないよ。
ただ自分と同じ境遇なのかなぁって思って仲良くなれたらって思っただけ。
友達になろうって言っただけなんだ。
俺がここに来た経過とか言うのは全然構わないし、どうしてもならさ、ホントは痛いのは嫌なんだけど、俺処刑とかされてもいいんだけど…俺が色々しゃべると俺の国が滅ぼされちゃうから。それは嫌なんだ。
俺の兄ちゃんはすごく不器用だけど誠実で優しい人で…俺を他国に送るって話が出た時に、俺を送るくらいなら、俺に位譲って兄の自分が行くなんて無茶な事言ってくれちゃうくらい優しい人で…俺兄ちゃんの事すっごく好きで…兄ちゃん困るの嫌なんだ」

人が好きで…人と仲良くするのも得意で…でも自分はどうも説得には向かないらしい…と、今更ながらフェリシアーノは気付いた。

兄ちゃん…ごめん。俺役にたてなかったかも……。
自信満々で国をでてきたわりに、結局国を、兄を守れなかった。
フェリシアーノはがっかりうなだれる。

そんな不肖の弟でも、ロヴィーノはたぶん、役に立てなかった事より自分が国に帰れなかった事の方を嘆いてくれるだろうと言うのがわかっているだけに余計にへこんだ。

相変わらず自分を見る太陽の国の国王の視線はきつい。

せめて全部しゃべる代わりに国の安全をはかってもらえないかなぁ…と思うものの、この様子を見ると無理そうだ。

そんな事を考えていると、ドアがいきなりノックされた。

「なんだ?」
と、ギルベルトが声をかけると、ドアが開く。

「ギル、客」
とやはり王を愛称で呼ぶ女性は、しかし男性のような格好をしていて…チラリとフェリシアーノに目を向けると、少し優しげに目を細めた。

「王子様もね。国から人来てるから」
「国から?誰だろう…」

首をかしげるフェリシアーノの頭を軽くポンポンと叩く彼女の手の優しさにフェリシアーノはなんだか泣きそうになった。


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