前回の一連の事が脳裏に蘇る。
あの衰弱しきって今にも息絶えそうだったアーサーの姿が浮かんでは消えた。
自分とは違って綺麗なぶん、すぐ消えてしまう儚い命…。
目の前で消えかかっている命の灯を前に何もできないあの無力感と絶望感…
部屋のドアを片っ端から開けて中を覗き込むが、求める姿はない。
足が、手が、体中が恐怖に震えた。
あの子をなくす……あの子がいなくなる……?
想像するだけで体中から血の気が引いて行って倒れそうだ。
心臓の痛みは限界で、今アーサーに何かがあったと知らされたら、耐えられる許容を越えて痛みに気が狂うだろう。
今でさえ痛すぎていっそ心臓をえぐり出したい気分になっている。
(アーサー、アーサーっ…どこだっ?!!)
倒れているかもしれないと、死角になるようなところまできっちり探して、息絶えた姿が見つからない事に安堵し、無事な姿が見えない事に絶望する。
安堵と絶望がグルグルと回りまわって、目まいがした。
目の前がグラグラと揺れて、無様に転ぶ。
それでも壁にすがるように立ち上がると、おぼつかない足取りでギルベルトはまた走りだした。
前回のように、ほんの1分が助けられるか死なせてしまうかの境目になるかもしれない…そう思うといてもたってもいられない。
(無事で…無事でいてくれ…)
祈りながら、もうどこを走っているやらわからないまま城中をさすらっていると、不意にルートの声が聞こえて我に返った。
そして人質部屋の一帯に来ていた事に初めて気づく。
考えるより先に走り出していた。
「アーサー居たか?!」
と叫ぶと同時に声の聞こえた部屋に飛び込むと、そこには探し求めた大事な大事な宝物が。
その無事な姿にギルベルトは泣きそうになった。
それでも安心できなくて
「怪我は?どこもなんともないか?」
と、アーサーの上から下まで確認して、どうやら本当に無事な事がわかってホッとして抱きしめる。
薔薇と…紅茶の甘い匂い。
夢じゃない…。本当に大事なこの子だ…。
その香りとふわふわとした感触にようやく辺りを見回す余裕を取り戻したギルベルトは、そこに嫌なものを発見して表情を引き締めた。
風の王…フランシスの手下。小川の国の王子フェリシアーノ。
まさかアーサーに何か?と、警戒を強めるギルベルト。
とりあえず…と、アーサーをルートに戻して部屋に戻らせるように言ってフェリシアーノから引き離す。
もちろん前回の事もあるし何かあってからでは遅いので医者の手配も忘れない。
「さて…」
ルートにひきずられるようにアーサーが部屋を出て行ってパタンとドアが閉まると、ギルベルトはス~ッと表情を消した。
「あの子に何してたんだ?」
返答次第ではただではおかない…殺気を放つギルベルトにフェリシアーノはすくみあがった。
大国の王…という立場を別にしても身の毛がよだつほど怖い…。
「黙ってるって事は…言えないような事してたってことでいいか?」
一歩踏み出して言うギルベルトに思わず一歩下がるフェリシアーノ。
全身から冷たい汗が噴き出した。
言葉が出ない…。
しかたなく首を横に振るが、ギルベルトの殺気は増すばかりだ。
殺されるっ!とフェリシアーノが思わず目をつぶった瞬間、バン!と再度部屋のドアが開いた。
「ギル、」
ドアの外から顔だけ出すアーサー。
か…可愛いい~~~~~
可愛いよなぁ~~~~~
と室内の二人が一瞬緊張を解いた。
そこでアーサーの言葉…
「フェリは俺の友達だから…あまりきつい事言わないで欲しい」
「アルト…」
「アーサー…」
ギルベルトはがっくりと、フェリシアーノは喜色満面でその名を口にする。
「まあ…今回はとりあえず命は助けてやる。
一応鍵がかかってた部屋から勝手に抜け出てるんだから、話は聞かせてもらうけど、乱暴な事はしない。それでいいだろ?
ちゃんと部屋に戻って一応医者の診察受けといてくれな」
渋々そういうギルベルトに、アーサーは、なんで医者?と口をとがらせるが、
「前回の事あるし俺様が安心できない。
ちゃんと受ける事が今回こいつをそれだけで許してやる条件だぞ?」
とギルベルトが言うと、アーサーは渋々うなづいて部屋に戻って行った。
それを見送って、ハ~っとため息をつくギルベルト。
「ま、約束だから仕方ねえな。でも話はきかせてもらうぞ?風との関係もな」
と、笑顔とは言えないし不機嫌な声音ではあるが、さきほどのような殺気はないギルベルトに少し安心して、フェリシアーノはこくりとうなづいた。
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