生贄の祈りver.普英_9_5

「で?あの子どうするの?」
小川の国の王子との謁見を終えたあとの執務室、他に人がいないのを良い事に、エリザは行儀悪くギルベルトのデスクに座る。

そして
「なんか…裏ありそうではあるんでしょうけど、必死さが痛々しくない?
あんたが相手してやらないから最後泣きそうな顔してたじゃない」
くるくると指先で自分の髪の毛先をもてあそびながらそう続けるエリザに

ギルベルトは不機嫌に口をとがらせた。

「色魔の手先なんだぜ?
知らないと対策が練れないからあったけど、本当はそんな時間あったらアルトとルッツの可愛い顔拝んでたいわ、俺様」

「あんたねぇ……どんだけあの子達の事好きなのよ」
「そうだなぁ、もうこうしてお前と喋ってる時間もったいない思うくらいには?
だから俺様もう行くわ。
とりあえず子狐の化けの皮はがして逆に色魔に攻撃させる方法考えとくわ」
「はいはい」
そう言いつつ自分もストンと机から降りて肩をすくめるエリザに構わず、ギルベルトは、じゃあそういうことで、と、言い残すと、執務室を出て行った。



最近持ちこめる仕事は部屋に持ち込みで、外部との接触のある仕事以外はずっとアーサーの部屋で過ごしている。

元々はデスクワークの類は嫌いではなかったのだが、アーサーの部屋でアーサーの淹れてくれた美味しい紅茶を飲みながら、かたわらで刺繍をするアーサーの可愛らしい姿で時折目を癒しながらする仕事は、結構楽しいしさらにはかどる気がする。

そこにいてくれるだけで癒される…そんなのは初めてだった。
将来的な事はわからないが、今はただ無垢で綺麗なまま大事に大事にしまっておきたい。
あんな色魔の性的なおもちゃにするなどとんでもない。
大事な大事な宝物。
それが手の中にあるだけでこんなに幸せだ。

ギルベルトは鼻歌を歌いながら廊下を軽い足取りで急ぐ。
今日仕事が終わったら明日は丸一日時間が取れる。
そうしたらアーサーとルートを連れて船で釣りをしよう。

そんな事を考えながら自室前の廊下までたどり着いた時、隣室のアーサーの部屋のドアがバン!と開いて、中から険しい顔のルート飛び出して来た。

「ルッツ!どうした?!」
ギルベルトが駆け寄ると、ルートは青い顔で叫んだ。

「貸して欲しいと言われた本を取りに行っていたわずかの間にアルトがいなくなってしまった!!
また何かあったらっ!!」

「マジかっ!それどのくらい前だっ?!」
思わずギルベルトも声を荒げてルートの両腕を掴んで聞く。

「たぶん…10分も席外してないんだが」
ルートの言葉にギルベルトは反転した。

「エリザに一緒に探すよう言ってきてくれ!
他には言うなっ。万が一にでも外部の人間に知られたら返って危険だっ!」

そう言い置いて、ギルベルトはとりあえずかけ出した。



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