生贄の祈りver.普英_9_4

「アルトに何してるんだ?!」
その時急に鋭い声がして、アーサーの手を取っていたフェリシアーノの手がはたき落とされた。


自分達と同じくらいであろう少年は、アーサーを後ろに隠すとフェリシアーノをにらみつけた。
「アルトは俺の友人だ!おかしな真似したら承知しない!」

どう言う事だろう?
アーサーは他国の人間で、この少年はおそらく鋼の国の人間だ。
いくら王のお気に入りとしても、他国の人間とあまり個人的に懇意にするのは普通許されることではないのではないだろうか…
フェリシアーノが悩んでいると、少年は今度はアーサーの方に向き直って叱っている。

「知らない相手に話しかけられても相手にしては駄目だ!危ないぞっ!
そもそも…どこかに行く時は必ず俺と一緒に行けと言っただろう?!」
そうきつい口調で言った後、少年は泣きそうな顔になった。

「本当に…部屋戻ったらいきなりいなかったから、とても心配したんだ。
またどこかで倒れているのかと思って、心臓止まるかと思った」
とそのまままたアーサーをきつく抱きしめているところを見ると、なぜかはわからないが、本当に大切な友人らしい…とフェリシアーノは判断した。

「ごめん…ごめん、ルート。
ちょっとうちから持ってきた種取ってきてすぐ戻るだけだったから、一人で大丈夫だと…」
と、オロオロと言い訳をするアーサーの言葉を遮って少年、ルートは
「大丈夫ではないっ。
絶対にこれからは一人で出歩くなっ」
と、アーサーを頭ごと抱え込む。

そこでさらに足音と共に人が駆け込んできた。

「アルト居たか?!」
と、顔面蒼白で部屋に駆け込んできたのは、なんと先程まで顔色一つ読ませなかったこの国の国王、ギルベルトだった。

「怪我は?どこもなんともないか?」
ルートの腕からアーサーを引き寄せると、ギルベルトはそう言ってアーサーの全身を確認するように、上から下まで目を向けると、ようやくホ~っと安堵の息を吐き出してアーサーを抱きしめる。

「本当に…無事で良かった…」
と言う腕が声が震えていて、どれだけアーサーを心配していたかが伺える。


「…ギルもルートも…おおげさなんだよ。」
と、ギルベルトの腕の中でちょっと拗ねたようにアーサーが言うのに

「おおげさじゃない…。アルトになんかあったら俺様もうショックで死ぬから」
と、やはり震える声で答えた。
肩が震えている。もしかしたら泣いているのかもしれない…。


自分と対面した時のあの食えない人物とはまるで別人だ…とフェリシアーノは驚いた。

同時に、本人いわく少し一人で王の部屋の隣の自室からこの人質の部屋の連なるあたりまで物を取りにきただけで、王自らが顔色を変えて探し回っていたらしい事にも驚く。
いったいこの子はどれだけ大切にされているのだろう。

「…ギル…ごめん。悪かった」
さすがに気がひけたのか、アーサーがそう言って少し抱きしめ返すと、ギルベルトはコツンとアーサーの額に額を押し当てて
「無事だったから、もういい…。
でもこれからは黙って一人でどこかに行かないでくれ。
本当に心配すぎて俺様発狂するから」
と言う。

そして気が落ち着いてきたのか、
「ルッツ、アーサー頼むわ。一応エリザに言って医者に見せといてくれ」
と、アーサーをルートに戻して、部屋の外へとうながした。



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