生贄の祈りver.普英_9_3

王を愛称で呼んで王の部屋の隣に部屋を与えられているこの少年はいったい……
フェリシアーノが少し考え込んでいると、同じく考え込んでいた少年がぽつりぽつりと口を開いた。


「森の国から来たんだけど…来る途中で他国の襲撃があって…ギルが助けに来てくれて…なんか…仲良くなって?今は…なんだか人質じゃなくて身内だって言われてる…」
ほんのり頬を紅くして少し照れたようにいう様子も可愛い。

たどたどしいその説明が、少年がまるで世慣れていないのを表しているようで、なんだか庇護欲のようなものをそそられた。

それと同時にこの子大丈夫か?と心配になる。
話を聞く限り、おそらく今の鋼の国の王のお気に入りなのだろう。

自分は人質というものは基本的に使い捨てで、気にいられたとしても一過性のものだという認識はちゃんと持っているし、たとえ笑顔でもこの国の王が非常に油断のならない人物だと言うのはなんとなく感じ取れた。

でもこの子は相手の事をまるごと信じてしまっているように見える。
もしあの王がこの子に飽きてまた人質として放りだしたら…


「あのね」
それは非常に衝動的な行動だった。
フェリシアーノは少年の手を両手で握る。

「俺、フェリシアーノって言うんだ。小川の国から来た人質だよ。君は?」

いきなりのフェリシアーノの接近に少年は思い切り戸惑いながらも
「…アーサー…」
と答えた。

「そう。あのね、アーサー、俺は君と同じような身の上だから…君の味方だよ。
何かこの先つらい事とかあったら言ってね。
何もしてあげる力はないかもしれないけど、言うだけでも楽になる事ってあるからね」

フェリシアーノの言葉にアーサーはぽかんと不思議そうな顔をする。
強国の人間が小国の人間をどう扱うかなどわかってないんだろうな…とフェリシアーノは苦笑した。

自分だって風の国ではそこそこ気にいられていた方だと思う。
何かにつけてフランシスの前に呼ばれたし、アーサーのように隣の部屋を貰うと言う事はなかったが、朝から晩まで一日中かなりの割合でフランシスの部屋で過ごしていた。

それが必要となれば、掌を返したように敵国で相手の王に取りいって来いと送りだされるのだ。

この子がそんな目にあわないといいな…とは思うものの、自分には助けてやれるだけの力などないのもわかっている。
せめて傷ついた時に嘆きを吐き出せる相手になれれば良いなと、フェリシアーノは思った。

まあ今そんな話をしてもアーサーには実感がわかないだろうし、わいたらわいたで日々不安にさせるだけだろう。

そう思ったフェリシアーノはとりあえず
「えと…つまりね、同じ年くらいだし、友達になろう?」
とニッコリと自慢の天使の笑みを浮かべた。




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