生贄の祈りver.普英_9_2

(…兄ちゃん……どうしてる?)

庭にある小さなベンチに横を向いて膝を抱えるように腰を下ろすと、フェリシアーノは抱えた膝に顔を埋めて、大好きな双子の兄の事を想った。

不器用で…優しい言葉をかけてくれたりは滅多にしないが、本当は優しい兄ロヴィーノ。

鋼の国が隣国湖の国を攻めるとわかった時、あと二つの大国のうち、一番動いてもらえそうな風の国へフェリシアーノを送ろうと重臣たちが言うのに、最後まで反対していた。

しまいには、どうせ双子なんだから王位継承権なんてそう違いがあるわけじゃないし、フェリシアーノに位を譲って長男の自分が行くとまで言ってくれたその言葉で、フェリシアーノは何があってもこの国を守ろうと、遠く知らない大国で骨を埋める覚悟をしたのだった。

絶対にそんな兄を、国を守らなければならない。
そのためなら自分はどんな事もする覚悟できたのに、今のままでは何もさせてもらえない。
ため息しかでない……。

いや…ため息をついている場合じゃないか。
ガバっと顔を上げるとフェリシアーノは辺りを見回した。

隣の庭とこちらを隔てている垣根は、完全な大人なら無理そうだがまだ細いフェリシアーノくらいの少年ならなんとかくぐれそうな隙間がある。

「よいしょ…っと…う…やたっ!」
このままではらちがあかないとくぐってみれば、なんとか隣の部屋の庭へと脱出成功だ。

案内の者が言った通り、そこには全く人の気配はない。
部屋と庭のドアは開かないように鍵がかけられているので、フェリシアーノはしかたなくさらに隣の庭へと侵入する。

すると今度は部屋の中に人の気配がした。
ぺたっと窓に張り付いて中を覗くと自分と同じ年頃の少年が見える。

少し落ち着いた柔らかい色合いの金色の髪に真っ白な肌。
新緑の色に似た翠の瞳を縁取る金色のまつげは驚くほど長い。

(うあ~可愛い子だなぁ♪)
とそのまま観察してると、目があった。
びっくりしたように丸くなる緑の目が可愛らしい。

にこっと笑いかけて手を振ると、一瞬戸惑って、それでもおそるおそる窓を開けてくれた。

「お前…何してんだ?庭師…じゃないよな?」
コクっと首を傾けて聞いてくるのに
「うん、違うよ~」
と答えながら、フェリシアーノは窓から部屋の中に入る。

こうして普通に会話してくれる相手はこの国にきて初めてで、フェリシアーノは嬉しくなった。
基本的に人が好きなので、みんなに避けられて遠巻きにされると地味に落ち込む。

「ここさ、人質用の部屋だよね?俺の他に人質いないって聞いてたけど…君は違うの?」
嬉しくて饒舌になるフェリシアーノに、少年は少し戸惑ったように黙り込んだ。

「ごめんね、聞いちゃいけない事だった?」
その様子にフェリシアーノがうつむく少年の顔を覗き込むと、少年は首を横に振った。

「いや…ここは元々俺の部屋になるはずだった部屋で…実家から持ってきた荷物はそのまま置かれてたから、少しだけ取りにきたんだ」
「君の部屋になるはずだった部屋?今は?違う部屋にいるの?」
さらに聞くと、少年は言う。
「ギルの隣の部屋にいる。必要なモノは揃えてくれるから他はいいんだけど、実家から持ってきた花の種植えたくて…それだけ取りに来た」

ギル?っと一瞬頭の中で考え込んで、フェリシアーノは思い出した。
ギルベルト・バイルシュミット…この国の王の名前だ。
ギルというのはギルベルトの愛称なんだろう。



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