チクリ…と、シャワーの湯が当たると背中に若干の痛みが走る。
それがなんの痛みかは分かっているので、ギルベルトは少し顔をほころばせた。
だってアーサーは可愛い。
可愛すぎる。
いやいやと泣きじゃくるわりに、身体はしっかりと反応していて、手は拒むでもなくギルベルトの背に回して、溺れる子猫のように力なくカリカリと引っ掻いている。
その結果がこの背の痛みなのだが…。
そう、この反応にやられてしまった。
本気で抵抗をされれば、いくらギルベルトでもさすがにやめる…というか、おそらく萎える。
なのに、“いやだ”、というその口に、次に乗る言葉が、“気持ち、い”…なのだから、やめられるわけがない。
まず湯を張った浴槽で疲れきって眠ってしまった恋人の身体の後始末をして、ソファに横たわらせている間に寝台のシーツと防水マットを替え、そこにそっと移動させてやってから、自分はさっさとシャワーで済ませて急いで寝台に戻ると、アーサーは自分がクリスマスにプレゼントした自分を模したクマのぬいぐるみ、ギー君をしっかりだきしめて熟睡中だ。
クマをだきしめて眠っている恋人は可愛い。
文句なしに可愛い。
「…でも、そう言えばお前、俺様が置いていかれた時もアルトに連れて行ってもらったんだよな…」
と、ヌイグルミ相手にバカバカしいと思いつつヤキモチ。
「でも…これからは一番にアルトの側にいるのは俺様だからな。
お前は飽くまで側にいられない時の留守番兼護衛だから」
そっと恋人の手からそのクマを離すと、それは枕元へ。
そしてピシッとヌイグルミにそう告げると、ギルベルトは最愛の恋人の隣に潜り込んで、しっかりと抱え込んだ。
そう、こうやって心身ともに恋人になったからには、絶対に離れないし離さない。
出来れば離れる時間を減らすため、仕事も共演できるものを増やしてもらおう。
そんな野望の元、ギルベルトはやがて根回しを始める。
そうして始まった『ギルとアーティのファンの皆様のおおせのままに』が、年単位で続く人気番組となり、そこからさらにバンドまで組む事になる事は、ギルベルトもこの時はまだ想像だにしていない。
しかしとにかく、これがギルベルトの芸能人生の大きな分岐点となったのである。
【完】
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