と、ごきげんなお姫さんに、ギルベルトはため息をつく。
わかってるとは思うけど…という意味を込めてそういったわけだが、ギルベルトの大切な大切なお姫さんは、全くわかっていなかったらしい。
「え?なんでです?」
と、きょろんと丸い目をさらに丸くしてギルベルトを見上げた。
可愛い。壮絶に可愛い。
もう惚れた弱みと言われようがなんだろうが可愛いものは可愛いのだ。
こんな可愛いお姫さんがいると極力広めたくはないというのは当たり前のことではないか。
「危ねえだろ」
「…なんでです?」
「…相手は敵が味方かまだわかんねえし…」
「ですね」
「ですね、じゃなくて…」
変なところではコクコクと納得するお姫さんについつい声が厳しくなるが、割合ときつい容姿なので怖がられることの多いギルベルトのそんな様子にも全く臆することなく、お姫さんは言う。
「危ない場所だからこそ、ギルベルトさんと一緒にいたいじゃないですか」
「はあ??」
意味がわからない。
嬉しいけど可愛いけど意味がわからない。
そう思って今度はギルベルトが首をかしげると、お姫さんはにっこり。
「だって、相手の本拠地なんですよ?
船にいたって安全とは限らないし、それならギルベルトさんの側にいたほうが守ってもらえるじゃないですか」
ギルベルトさんの側にいたら守ってもらえる…守ってもらえる…守ってもらえる……
お姫さんの言葉がギルベルトの脳内でくるくる回る。
駄目だ、流されるな…と思いつつも回る。
──あかんわ~、これギルちゃん流されるんちゃう?
そんなアントーニョの声も聞こえてくる気がしないでもないが、それもすでにわからない。
ギルベルトさんの側なら……
「駄目だっ!やっぱり危ねえっ!!」
ギルベルトは全てに耳を塞ぐつもりでそう言い切った。
しかしながらお姫さんは金鎖をその白い指先でいじりながら
「…危ない…ですよねぇ、やっぱり。
私、相手の本拠地でギルベルトさんがいらっしゃらないとなったら不安で、1人で船抜け出しちゃうかもしれませんし…。
ねえ?」
と、にこやかにアントーニョに同意を求めるところがあざとい。
そしてそうなったら元々出たとこ勝負で楽天家なアントーニョは絶対に慎重派のギルベルトの味方なんてしやしない。
「せやな!親分もついていくし、ギルちゃんと親分に囲まれてんのが一番安全やんな!」
と、もう思い切りお姫さんの味方だ。
「あのなぁ…!」
もうお姫さんは仕方ない。
だがアントーニョはもう少し危機感を持て!と思って思わず詰め寄るが、アントーニョはギルの襟首をぐいっと掴んで顔を近づけると
「親分な…悪いけどもうあんなん嫌やねん。
親分があーちゃんから離れとる間に、悪意があるかないかは別にして、他が絶対にあーちゃんを危険に晒せへんて保証はどこにあるん?
親分かギルちゃんがおらへんとこにあーちゃんを置いておくんはもう二度とごめんや」
と、ギルベルトの目をじっとみて言った。
「もし向こうで何かあっても親分が逃したる。
どんな事してもギルちゃんにあーちゃん守らせて親分が追手を防いだるけど、親分がおらへんとこやったら、それできひんやん」
なるほど…楽天的に考えているわけではなかったらしい。
むしろ逆か…と、ギルベルトはため息をついた。
そう考えてしまえば、こうやって航海に出ている以上、絶対に安全な場所なんてないのだ。
「あ~…わかった。
じゃあ1つだけ条件な。
これから職人に仮面を作らせるから、お姫さんは向こうではそれを身に着けて絶対にはずさないこと。
なまじ目をつけられると危険だから」
いいな?と、ギルベルトはアントーニョの手を外してアントーニョから離れ、お姫さんの方へと近づいてそう言うと、お姫さんはそれにはコクコクとうなずいてくれた。
そして
「じゃあ…どうせならその仮面にも金の飾りを入れましょう」
と、早速デザイン画に取り掛かっている。
本当に…商売に目覚めたのは良いが、可愛いのは危険だという自覚は持って欲しい。
船団的には資金繰りが楽になってありがたいのだが、その無防備さは悩ましすぎて、ギルベルトの悩みは本当に尽きないのだった。
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