そこで縄梯子を下ろせば、ターバンの男1人が甲板まで上がってくる。
「私はウッディーン商会の総帥、アブラハン・イヴン・ウッディーンの使い、ハシムと申します。
バイルシュミット提督にお願いがあり、参りました」
「…俺がギルベルト・バイルシュミットだ」
と、ギルベルトも名乗る。
「お初にお目にかかります。
提督のアフリカにおけるご活躍のお話はアラブの方でも色々耳にさせて頂いております。
つきましては、我が主が今後のお付き合いについてぜひお話をさせて頂きたいと申しておりまして、大変お手数ではございますが、ウッディーン商会の本拠が置かれておりますバスラまでお運び頂ければと言うことなのですが…」
意外な申し出にギルベルトは目を丸くする。
ギルベルト達は相手からすると警戒すべき新興勢力のはずだし、特にウッディーンはイスラム教徒だ。
キリスト教徒である欧州の人間を敵対視しているものかと思っていたが…
そんなギルベルトの迷いを見透かしているように、男、ハシムはさらに言葉を続けた。
「アッラーに誓って罠をかけたりなどはいたしません。
交渉が決裂した場合でも、アフリカとの境界になるソコトラまでは責任を持ってお送りし、その後、東に向かわれるか南に下られるということでしたら、ひとたびウッディーン商会の活動圏を出るまでは攻撃は控えさせていただきます。
我が主は誇り高い人物です。
知恵を駆使する事はあっても卑劣な真似はいたしません」
まっすぐに視線を合わせてくるハシムは嘘をついているようには見えない。
彼の主に関しては会った事はないので未知数だが、彼は信頼して良い気がした。
「…わかった。バスラに寄らせてもらおう」
とギルベルトが頷くと、なんとハシムは自分が乗ってきた小舟を返らせて
「それでは私がご案内いたします。
なにか私の側でも私の主に関しても疑念を持たざるを得ないような怪しい動きがあれば、遠慮なくお斬り捨てください」
と、うやうやしく頭を下げる。
おそらくただの使用人ではなく、それなりに権限を与えられて重用されている男なのではないかと、その立ち振舞から思った。
とにかく止まっていても仕方がない。
向こうから会いたいというなら会いに行ってやろうではないか。
こうして航路を北西へ。
目指すはバスラ。
ウッディーン商会の本拠地だ。
0 件のコメント :
コメントを投稿